できもの(しこり)の原因は、怖い『がん』以外にもいろいろあります。
今回はそんな悪性腫瘍や良性腫瘍以外の、でもよく似たしこり、主に肉芽腫についてのお話です。
ちなみに、獣医学では正体がわからない段階でのしこりは、『結節』や『腫瘤:しゅりゅう』、『マス(mass:塊)』などと表現されます。
肉芽腫(にくがしゅ/にくげしゅ)は、『腫』とついていますが腫瘍ではなく、免疫学的な炎症反応(アレルギー)病変の1つです。
猫の好酸球性肉芽腫群や、猫伝染性腹膜炎(ドライタイプ)、感染症(トキソプラズマ、クリプトコッカス等)、秋田犬などの肉芽腫性脂腺炎、犬の肉芽腫性髄膜脳炎、縫合糸反応性肉芽腫などでが代表例です。
悪性腫瘍細胞の塊である『がん』に対して、肉芽腫は慢性的な炎症によって生じる、炎症細胞と線維組織による丸い集合体です。(腫瘍組織の周りを肉芽腫が取り囲んでいる場合もあります)
肉芽腫は、マクロファージ、リンパ球、形質細胞、好酸球、好中球、好塩基球などの炎症細胞と、線維芽細胞によって成り立っています。
マクロファージ(組織球)とは、血液の中の白血球の1種である単球が、血管内から結合組織に移動して大きくなったものです。
マクロファージは、体内に侵入した細菌やウイルスなどの異物に対する最初の防御反応(自然免疫)として、好中球と共に異物を貪食します。
好中球は主にウイルスなどの小さいもの、マクロファージは大物担当です。
けれど貪食したものの、結局異物を分解処理しきれなかったマクロファージは類上皮細胞となり、さらに融合して多核巨細胞となります。
活性化したこれらの大きな細胞の形態が、腫瘍細胞に似ているのです。
外見的にも顕微鏡的にも腫瘍と見た目では区別がつきにくいため、針吸引検査による組織診断ではなく、組織病理検査による鑑別が推奨されます。
病理検査の方が、組織切片による細胞の配列がわかるのでお勧めなのです。
一部の細菌やウイルスは、マクロファージによる貪食作用を回避することが可能で、その上、マクロファージ内で増殖できる強者まで存在します。
そのような処理しきれない異物に対しては、プランBとして、体は異物そのものをカプセルのように肉芽腫でガチガチに覆って、例え体内にあっても体から『隔離』してしまおうとします。
コンクリートの石棺で覆われたチェルノブイリ原発のように。
さらに、肉芽腫から皮膚まで『瘻管:ろうかん』という管を通して、有害な異物を組織液(役目を終えた好中球などの残骸)と一緒に、体の外に排出してしまおうとします。
肉芽腫で覆われる可能性のある異物には、感染病原体(寄生虫、真菌、細菌、ウイルスなど)、腫瘍、炎症、薬剤、化学物質、肝胆道疾患(胆嚢破裂等)などがあります。
外科手術では、出血を防ぐために血管を結紮したり組織や皮膚を縫合するために、複数の縫合糸が使用されます。
この縫合糸に対して、程度の差はありますが、体は異物として組織反応(アレルギー反応)を起こします。
縫合糸反応性肉芽腫では、外科手術時に使用された縫合糸に対する過剰な免疫反応によって、縫合糸を取り巻くように肉芽腫が形成されます。
病変は縫合や結紮部位に限局して観察されます。
他犬種でも発生していますが、M.ダックスでの発症が多いので遺伝的な素因が疑われ、絹糸を使用した場合が多いのですが、他の縫合糸でも発生するようです。
けれど、縫合・結紮部位以外の他の皮下組織に多発性にしこりが発生した場合は、無菌性結節性脂肪織炎が疑われます。
M.ダックスは、免疫介在性疾患である無菌性結節性脂肪織炎の好発犬種でもあります。
人間で言う『ケロイド体質』なのでしょう。ニキビ跡や傷跡、手術の縫合部位などが硬く盛り上がって残ってしまうような体質です。
こちらも、M.ダックス以外でも発生しています。
無菌性結節性脂肪織炎は、皮下組織内に炎症性の結節性病変(しこり)を生じる疾患で、原因不明(特発性)です。
脂肪組織の炎症ですが、結節は摘むと脂肪腫よりも硬いです。
この結節の中には、肉芽腫の場合と違って、病原体や縫合糸などの異物は存在しないことが特徴です。
多分、免疫細胞のエラーなのでしょうね。
原因は不明なのですが、ステロイド剤などの免疫抑制剤に反応することから、免疫介在性疾患であると考えられています。
無菌性結節性脂肪織炎は犬で多く、猫での発生はとても稀です。
可能性のある要因としては、膵臓疾患、全身性エリテマトーデス、関節リウマチ、リンパ球形質細胞性腸炎などの、免疫介在性の基礎疾患を有する場合です。
その他、遺伝、薬剤の影響、外科手術などが考えられます。
初期には結節性病変が、進行とともに無菌性の排液を伴う自壊が起こります。
皮膚に自壊が起きれば細菌感染を伴うために、咬傷や外傷や感染と間違えられているかもしれません。
発熱、食欲不振、無気力、皮膚病変と離れた部位の痛み、関節痛、腹痛、嘔吐、肝脾腫大などの症状が起きることもあります。
治療は、ステロイド剤などの免疫抑制剤の投与や外科的切除です。
免疫抑制剤の休薬や漸減によって高率に再発が起こるため、長期にわたる投薬管理が必要になります。
以上、動物たちの健康管理のご参考にしていただけましたら幸いです。😊
※時々お問い合わせをいただくのですが、診察を伴わない個々のご質問にはお答え致しかねます。申し訳ありません。