「日本の動物検疫(輸入検疫)は世界一厳しい」と、『テルマエ・ロマエ』作者のヤマザキマリさんはおっしゃっています。
ヤマザキさん曰く、「飼い猫のアメリカやイタリアへの入国は、獣医師が発行したワクチン接種証明書を見せるだけでよかった」そうです。(いつ頃のお話か、わかりませんが。。)
今回は、動物(犬猫)と一緒に日本を出国し再び日本に帰ってくる、海外短期滞在のケースについてお話しします。
…とお話をしておいてなんですが、正直なところ短期滞在で動物を同伴することは、獣医師として全くお勧めできません。リスクが多過ぎます。
『どうしても』という方以外は、知識としてお読みくださいませ。
動物の、①日本出国、②相手国入国、③相手国出国、④日本入国時の検疫手続きの条件をクリアする方法についてです。
ちなみに動物の場合は、『輸出・輸入検疫(検査)』という言葉が使われます。
狂犬病(犬の場合は +レプトスピラ症)についての臨床検査を受けるのですが、当然、どの国も輸入検疫の方が厳しいです。
特に日本は、世界でも数少ない狂犬病の発生のない国(指定地域)ですからね。
指定地域以外(狂犬病発生国)から動物を輸入する場合、日本の輸入検疫では、①マイクロチップ装着による個体識別
②複数回の狂犬病予防注射(不活化ワクチン)
③採血による狂犬病の抗体価検査(農林水産大臣が指定する検査機関)
④180日間の輸出(日本入国)前待機
⑤輸入予定日の40日前までに輸入に関する事前届出
⑥必要事項が記載された輸出国政府機関発行の証明書取得
これら全てが必要で、とっても大変ですし、不備があれば係留期間は最長180日!!
なので、日本を出国する前から日本に帰国する時のために、あらかじめ必要な処置を日本で済ませ、書類を用意しておくのです。
これらをきちんと行えば、日本に入国するために外国で180日間の輸出待機(狂犬病の潜伏期間に相当する期間内では日本に入国できない)が免除されます。
さらに、日本に帰国時の係留期間を12時間以内(ほぼ1時間以内)に短縮することができるのです。
※指定地域からの輸入条件はまた違ってきますので、必ず動物検疫所にお問い合わせください
そうと決まれば、狂犬病の予防接種を(30日以上の間隔で)複数回行わなければならなかったり、抗体価検査の結果待ちに2週間以上必要だったり、何かと時間がかかるので、早め早めに行動した方が良さそうです。
日本への帰国日から逆算して、予定表を作るといいかもしれませんね。
『絶対無理!』という方には、代行してくれる会社もあるようですよ。
●必要な行動
①出発空港(港)の動物検疫所と渡航先の国(相手国)の大使館のHP、または直接に連絡をし、動物の出入国に関する情報や必要書類を入手する
※国によっては、狂犬病以外の感染症検査、混合ワクチン接種、外部寄生虫と内部寄生虫の予防や駆除が必要だったりします
※飛行機の経由地で、出入国手続きと同時に、動物検疫が必要な国があり、さらに追加証明書(ANNEX)の取得が必要な場合がありますので、その国の情報も必要です
獣医師は全ての国の出入国条件を把握しているわけではありませんので、各自でしっかりと確認を行ってください。
②出発空港(港)の動物検疫所に連絡をして指示を仰ぎ、輸出検査申請書を提出(日本出国日の7日前まで、できるだけ早く!)
NACCS(動物検疫関連業務)での申請も可能です。(この場合は輸出検査申請書は不要)
③書類の事前確認:出発空港(港)の動物検疫所に、輸出入に必要な全ての書類の不備がないか、下書き段階での内容確認をお願いする
④事前届出:輸入(日本入国)に関する事前届出を、到着予定空港(港)を管轄する動物検疫所に提出(日本帰国日の40日前まで)し、動物の輸入に関する届出受理書の交付を受ける(届出受理番号を確認)
⑤利用する航空会社に動物輸送についての問い合わせをする(受け入れ可能かどうか、手荷物or預入荷物、輸送ケージの条件など)
⑥輸出検査(出国日):動物検疫所で狂犬病(犬の場合は +レプトスピラ症)に感染していないことを確認する検査を受け、動物検疫所発行の輸出検疫証明書(英文・2部、1部は帰国時に必要)を取得する
※輸出検疫証明書に獣医師の署名が必要な時は、事前に動物検疫所に問い合わせを行い、獣医師家畜防疫官の検査受付時間に検査を受けられない方は、開業獣医師発行の健康診断書を提出する
⑦動物を連れて、通常通りチェックインカウンター、セキュリティチェック~ へ
●動物病院で必要な処置 (相手国の入国条件によっては、下記以外に必要になることがあります)
①マイクロチップ装着と個体識別確認
②狂犬病予防注射:マイクロチップ装着後2回以上、1年以内に接種
③採血による狂犬病の抗体価検査
④出発までに、未接種ならば混合ワクチン(犬はレプトスピラの含まれているもの)接種、外部・内部寄生虫の駆除を行い、健康に注意して病気にさせない
●必要書類 (輸出検査時持参)
①マイクロチップ装着証明書(獣医師):すでに装着済みの場合は、購入したペットショップまたは動物検疫所にお問い合わせください
②狂犬病予防注射済証・2回分(マイクロチップ番号記載のもの)(獣医師)
③狂犬病抗体価検査結果通知書(指定検査施設)
④(必要ならば)相手国の入国条件で必要な書類、開業獣医師発行の健康診断書など
⑤輸出検査申請書(NACCS(動物検疫関連業務)での申請では不要:申請番号のみ連絡)
⑥代理申請の場合は委任状
⑦その他、動物検疫所から案内された書類
(相手国内)
輸入検査は省略します。
●必要な行動・処置
①日本へ帰国までに、狂犬病予防注射の有効免疫期間(接種後1年)、抗体価検査(採血日(0日)より2年)が1日でも切れる場合は、追加の接種や検査
②輸出検査:狂犬病(犬の場合は+レプトスピラ症)に感染していないことを確認する検査を受け、相手国政府機関発行の健康証明書(出発2日以内)を取得する
(日本帰国時)
●必要な行動
①必要書類を提出し、輸入検査を受け、動物検疫所発行の輸入検疫証明書を取得する
(日本出国前に書類の事前確認:出発空港(港)の動物検疫所に、輸出に必要な全ての書類の不備がないか、内容確認をお願いしておくこと)
●必要書類
①輸入検査申請書(NACCS(動物検疫関連業務)での申請や、事前届出では不要)
②相手国政府機関発行の健康証明書
③日本出国時に、動物検疫所から交付済の輸出検疫証明書(コピー不可)
④追加接種や検査を行った場合は、その追加処置について記載された相手国政府機関発行の証明書
⑤狂犬病抗体価検査結果通知書(必要に応じて相手国で行なった場合は、その通知書も)
⑥動物の輸入に関する届出受理書(届出受理番号)
⑦その他、動物検疫所から案内された書類
⑧代理申請の場合は委任状
●係留検査
輸入条件や書類に不備が認められた場合には、動物は到着空港(港)にある動物検疫所の係留施設で、必要期間係留検査を受けることになります。
係留検査中の飼養管理、費用は全て輸入者の責任と負担で行われます。
面会は可能ですが、施設からの動物の移動は許されず、治療行為は民間獣医師の往診のみ許可されます。
そのようなことにならないように、心と時間に余裕を持って、疑問な点は小さなことでも動物検疫所の方々に指示を仰ぎながら、準備は完璧に行いましょう。
正直、個人的には全くオススメできません。長旅は人間でも大変ですからね。
動物はケージから出すことができなかったり、長時間の貨物扱いの輸送では、命の危険も伴うはずです。それを覚悟でするなんて。。
けれど、世の中には様々な事情で「行かねばならぬ!」という方もいらっしゃるはずです。
なので、そんな皆様にご参考にしていただけましたら幸いです。
※時々お問い合わせをいただくのですが、診察を伴わない個々のご質問にはお答え致しかねます。申し訳ありません。