腎臓病は、急激な腎臓の機能低下や尿量の減少が起きる急性腎障害(尿毒症症状があれば腎不全)と、急性腎障害を脱したものの腎臓の障害が残ったり、あるいは老化に伴い持続的に存在する慢性腎臓病があります。
猫では慢性腎臓病が圧倒的に多いので、今回は猫の慢性腎臓病のお話をします。
原因はほとんどが加齢によるものですが、若い頃に尿路結石や中毒、熱中症などによって急性腎障害(尿毒症を伴えば腎不全)になり、回復したものの腎臓障害が残ってしまった子などは、早期に慢性腎臓病になることがあります。
診断は臨床症状と血液検査、尿検査の結果から総合的に行われます。
血液検査で確認される項目は主に、Cre、BUN、SDMA、(P、Ca、Na、K、Cl、TP、アルブミン、Glu )です。
(血糖値が正常でも尿糖が検出される腎性糖尿はまたの機会にお話します)
Cre(クレアチニン)は腎臓から排泄されるので、血中濃度が高い(血液中にたくさん残っている)と、腎機能が低下していることがわかります。
Creは筋肉の量に比例するので、大きな雄猫は健康でも高めに、痩せた猫は悪化していても低めに、数値が出ることがあります。
Cre値は腎機能全体の75%(3/4)以上が失われて、初めて急激に上昇します。
BUN値ほど食事の影響を受けませんが、IRIS(国際獣医腎臓病研究グループ)では、血液検査の時には半日以上の絶食を推奨しています。
BUN(ビーユーエヌ)は、体の中でのタンパク質の最終代謝産物です。
BUN値は腎機能が低下すると高い値になりますが、食事(タンパク質の摂取量)、脱水、肝機能、消化管内出血などにより影響を受けます。
血液検査で腎機能障害によりBUN値が上昇するのは、腎機能の75%(3/4)以上が失われた状態になってからです。
SDMAは、腎機能の40%が失われた段階で数値が上昇し始めますので、早い段階で腎機能低下を検出できる可能性が高いです。
CreやBUNと違って院内検査が行えず、動物専用の検査センターで行われます。(血液検査キャンペーンのオプションになっています!)
尿検査では、尿の濃さである尿比重と尿試験紙の検査を行います。
腎臓病になると薄い尿しか作れなくなり、尿比重が低下することが多いです。
さらにUPC(尿中蛋白クレアチニン比)により、タンパク尿の程度を調べることがあります。
検査項目が多いほど情報量も増えますが、その分費用がかかってしまうのと、猫は絶食や採血や採尿が難しい子が多いので、全てが行えるわけではありません。
病期分類として使用されている、IRISの慢性腎臓病のステージは、Cre値によって分類されています。
けれど個人的には、Creの数値だけでは不十分で、予後予測を含めて個体差が大きく、うまく説明できないように感じます。
他には、レントゲン検査や超音波検査が行われることもあります。
これは尿路結石の有無、腎臓の大きさやその内部構造から、水腎症や腫瘍の有無などを確認するために行われます。
原因によって、治療法や予後が変わってくるからです。
慢性腎臓病と同じく高齢猫に多い甲状腺機能亢進症では、全身の血流が良くなることによって、Cre、BUNの数値が低く出てしまい、本来の腎臓病を検査上隠してしまうことがあり、注意が必要です。
このように血液検査の数値は他の病気に影響されることがあるので、そんな欠点を補い合い間違いなく診断するために、色々な検査を行うことが望ましいです。
腎臓は心臓と同じで一度悪くなると、もう正常に戻ることはなく、進行性に悪化してゆきます。
けれど治療をすると元気になるし、血液検査の数値が改善することがあります。
これは、BUNは脱水の改善や低タンパク質の食事によって、Creは筋肉量の減少によって数値が低下し、その他には飲水量や検査機械の誤差によっても結果が変わってくるためです。残念ながら。。
治療は対症療法を中心に、ご家族の皆様とご相談の上で行われます。
慢性腎臓病の猫ちゃんは、原因や個体差もありますが、治療によって意外と長生きをしてくれる印象があります。
猫も腎臓も、我慢強く、しぶとく、逞ましいということでしょうか?(もちろん良い意味で💦)
確かに、だんだんと弱って痩せてゆく子を、毎日見守ることは辛いことです。
ただそんな中でも、これまでの色々な出来事を思い出したり、ご家族で協力し合いながら(時には喧嘩しながら)皮下点滴などの治療をお家で行うことによって、思い出を新たに作ったり。
旅立つその時まで、気持ちの整理のための時間は十分あるはずです。
その時を迎えるまで、後に悔いを残さないように、精一杯の愛情と感謝を込めて治療とお世話をしてあげてください。
私たちはほんの少し、そのお手伝いをさせていただきたいと思っています。
※時々お問い合わせをいただくのですが、診察を伴わない個々のご質問にはお答え致しかねます。申し訳ありません。