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停留精巣

停留精巣)/ 長谷川動物病院
鼠径部皮下の半陰睾(腫瘍化)/ 長谷川動物病院

 

ようやく朝晩が涼しくなってきましたね。

 

蚊が活発になり、私には辛い季節です。😣

 

 

私たちの病院では、避妊手術や去勢手術を希望されるワンちゃんや猫ちゃんは、手術の前に必ず健康診断を受けていただきます。(術前検査とは別です)

 

保護猫ちゃんの場合は難しいですが。。

 

その子の状態を確認して手術を行えるかどうか、またどういう手術を行うのか、手術の見積もりなどを、飼い主様に説明し納得していただくためです。

 

痩せて小さかったり状態の悪い子に、全身麻酔をかけて手術はできませんからね。初診の子ならば尚更です。

 

それと、手術の前に治療可能な問題は、解決しておきたいからです。

 

避妊手術や去勢手術は緊急の手術ではありませんので、できるだけ万全な状態で受けていただきたいのです。

 

 

手術内容やリスクの割に、動物病院の避妊・去勢手術の料金は、低く抑えられているのが一般的です。

 

これは望まれない子犬や子猫を増やしたくないという獣医師の願いの現れです。

 

けれど料金のせいで、『簡単で安全な手術』であると誤解されている方もいらっしゃるかもしれません。『100%安全な手術』などないんですけどね。😥

 

より100%に近づけるために、必要と思われることをするのです。

 

ノミやマダニなどの外部寄生虫や、消化管内の内部寄生虫、感染症と外傷の有無や一般状態、外陰部の確認などを行います。

 

女の子は発情や妊娠の有無、男の子は停留精巣(陰睾や半陰睾)でないかどうかを確認します。

 

陰睾(いんこう)や半陰睾は、開腹手術( + 一般的な去勢手術)が必要になることもありますので、そのことを理解していただかなくてはなりません。

 

毎日一緒にいても、結構気付いていらっしゃらない飼い主様も多いですからね。

 

今回は、そんな停留精巣(ていりゅうせいそう)のお話です。

 

 

精巣(睾丸)は、精子を作る機能を持つ生殖器です。

 

陰嚢(いんのう)という袋に包まれて、2つ存在するのが一般的です。

 

けれど、触ると陰嚢の片方または両方とも、精巣が存在しないことがあります。

 

片方だけの場合は半陰睾、両方ない場合が陰睾で、発生は半陰睾の方が多いです。

 

犬で多いのですが、意外と猫でも見ます。人間も同様みたいですね。

 

 

犬や猫の精巣は、妊娠中の胎児の時に腹腔内の腎臓の後ろあたりから移動して、そ径菅というトンネルを通ってそ径部の皮下に出て、生後2ヶ月齢頃までには陰嚢の中に収まります。

 

けれど、一定期間を過ぎても陰嚢まで移動してこない子がいて、これが停留精巣です。

 

停留睾丸潜在精巣陰睾陰睾丸は、全て同じ意味です。

 

停留精巣だからといって、すぐに病気につながるわけではありませんが、将来的に精巣が腫瘍化する危険性が指摘されています。

 

陰嚢に移動してこない精巣が、どこにあるかはケースバイケースです。

 

写真のように、そ径部の皮下にあれば比較的わかりやすいのですが、そこにない場合は腹腔内を探さなければなりません。😩

 

ごくごく稀ですが、本当に精巣がない場合(精巣欠損症)もあり、とても厄介なのです。😣

 

さらにまれですが、犬猫ともに、3個以上の精巣を持つ例も報告されています。

 

精巣欠損症は、先天的な場合と、後天的に精索捻転などのために壊死消失する場合があるようです。

 

半陰睾の場合、正常な方の精巣が普通の大きさで、そ径部になければ腹腔内にあることが多く、正常よりも精巣が大きければ精巣欠損が疑われます。

 

最終的に見つからなかった時、欠損症であるかどうかの確認のためには、性腺刺激ホルモン放出ホルモン(hCG)刺激による血中テストステロンと黄体形成ホルモン(LH)濃度の測定を行うことが推奨されています。

 

 

停留精巣の原因は、遺伝性であると考えられています。

 

陰睾の子は、特に精巣が腹腔内に存在する場合は、高い体温のせいで精子が正常に作られず、ほぼ繁殖能力がありません。

 

けれど半陰睾の子は、1個の精巣は陰嚢内にあって正常ですので、繁殖が可能なのです。

 

停留精巣でも男性ホルモンは分泌されますので、繁殖の欲求は正常にあります。

 

なので、半陰睾の子は、繁殖させないようにしていただきたいです。

 

 

犬では、高齢の子を中心に、比較的精巣腫瘍の発生率が高いと感じます。

 

病院に全く来院されない子もいるはずですから、実際にはもっと多いはずです。

 

停留精巣では、正常な子に比べて精巣腫瘍の発生が、そ径部の場合は4倍、腹腔内は9倍高いと言われています。

 

直接確認できるそ径部の停留精巣とは違い、腹腔内の場合は、かなり大きくなるまで気付けないことがほとんどです。

 

手術時に、すでに進行しているセルトリ細胞腫(精巣腫瘍)では、腫瘍の切除後も再生不良性貧血(副腫瘍症候群)が改善されない場合があります。

 

このような理由により、停留精巣の子は早めの切除手術(去勢手術)が推奨されるのです。

 

 

そ径部皮下の停留精巣の場合は皮膚を切開して切除し、腹腔内の場合は、開腹して精巣を探し出し摘出します。

 

半陰睾の場合は、合わせて正常な精巣は通常の去勢手術を行います。

 

なので、皮膚の縫合部位は、1カ所または2カ所です。

 

停留精巣の切除手術を行わない場合は、特に腫瘍化しやすい中年期以降に、定期的な超音波検査での精巣の状態確認が推奨されます。

 

 

避妊手術や去勢手術によって、予防できると言われている病気が存在します。

 

実際、そういう病気になってから、『知っていたら、手術をさせたのに』と、後悔される飼い主様もいらっしゃいます。

 

避妊手術や去勢手術は、『ワクチン』と同じだと思うのです。

 

『100%の安全』は存在せず、メリットとデメリット、リスクとベネフィットがあります。

 

手術を受けなければ、必ず病気になると決まっているわけではありません。

 

けれど、前述のセルトリ細胞腫のように、手術が手遅れになれば亡くなってしまう子もいます。

 

その子とご家族にとってどうすることが一番良いと思えることなのか、いろいろなケースを想定して、ご家族でよく話し合って決めていただきたいと思います。

 

『転ばぬ先の杖』でも、『兎を見て犬を放つ』でも、結果を受け入れられるのならば、それでいいのだと思います。

 

迷った時は、私たちに相談していただきたいです。

 

 

 

以上、動物たちの健康管理のご参考にしていただけましたら幸いです。😊

  

 

 

 

 

※時々お問い合わせをいただくのですが、診察を伴わない個々のご質問にはお答え致しかねます。申し訳ありません。