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皮膚のバリア機能

皮膚のバリア機能/長谷川動物病院
       正常な皮膚の構造 / マルホHPより

 

皮膚は、動物の体の中で1番大きい臓器(器官)です。

 

表面を覆うことで外部の刺激や感染から体を守ってくれています。

 

体の部位によって、厚さや色調、毛や分泌腺の有無などが異なりますが、すべての皮膚は同じ基本構造をしています。

 

外側から、表皮真皮(しんぴ)皮下組織です。

 

表皮は角化扁平上皮からなり、盛んに細胞分裂を起こす最下層の基底細胞(基底層)~最外側の角質層まで、細胞分裂して積み重なり押し上げられた細胞がフケとなって剥がれ落ちるまで(ターンオーバー)に、約4週間かかります。

 

真皮には、毛細血管、リンパ管、神経や、皮脂を分泌する皮脂腺、汗を出す汗腺が存在します。

 

さらに真皮には、触覚、圧覚、痛覚、温覚、冷覚の5つを感じる受容器(センサー)が備わっています。

 

皮下組織は、主に脂肪細胞からできていて、外からの刺激に対するクッションの役割を果たしています。

 

 

皮膚の機能は主に4つです。

①保護作用

水分の蒸散を防ぎ、太陽光線、暑さや寒さ、外力、化学物質、細菌などの異物から体を守る働きをしています。

 

②知覚作用

体中で最大の知覚器官で、各種受容器(センサー)が存在します。

 

③体温調節作用

毛と皮下脂肪組織は熱放散に対して断熱の働きをし、熱放出は皮膚表面からの汗の蒸散と真皮の血管の拡張作用によって行われます。

 

④代謝作用

皮下脂肪組織はトリグリセリドの形でのエネルギーの主な貯蔵部位で、ビタミンDは表皮で合成されて食物からの不足を補っています。

 

 

今回は皮膚のバリア機能についてのお話です。

 

皮膚のバリア機能とは、外部の様々な異物(アレルゲン、細菌など)が皮膚から侵入するのを防いだり、体内の水分が皮膚から失われるのを防いだりする働きのことです。

 

皮膚の最外側の表皮、特に角質細胞がレンガを積み上げたように重なっている角質層が最も重要な役割を果たしています。

 

角質層には皮膚の潤いを保つ3つの因子、『皮脂』、『天然保湿因子』、『角質細胞間脂質』が存在しています。

 

皮脂は、毛包に開口する皮脂腺から分泌され、表皮由来脂質と混じり合って脂の膜を形成し、皮膚の表面を覆うことで水分の蒸発を防いでいます。

 

角質細胞間脂質は、角質細胞と角質細胞の隙間を埋めている脂(セラミド脂肪酸など)で、水分をサンドイッチ状に挟み込み、逃がさないようにしています。

 

天然保湿因子は、角質細胞の中に存在するアミノ酸尿素などで、水分を逃さないように保持します。

 

どれも、化粧品のCMで聞いたことがあるような名前ですよね。😉

 

 

この3つが正常に働けば、皮膚の潤いを保つことができ、皮膚バリア機能が維持されます。

 

けれど乾燥肌(ドライスキン)では、これらの因子が減少して角質層が構造異常を起こしています。

 

角質層が剥がれて隙間ができ、皮膚のバリア機能が弱まって、外部の異物(アレルゲンや細菌など)が侵入しやすくなっています。

 

そのためアトピー性皮膚炎が発症・悪化しやすく、本来は皮膚バリアの一員である常在細菌による、皮膚の感染症が起こりやすくなります。

 

 

皮膚の常在菌は、体の外(体表)で多くの細菌が互いに牽制し合いながら、特定の細菌の増殖を抑制しています。善玉菌も悪玉菌もいます。

 

さらに、皮膚細胞は常在菌(グラム陽性菌)の情報を認識して、抗菌ペプチド(自然免疫因子)の産生において、連携していると言われています。

 

なので、その環境に変化が起きると(細菌叢のバランスが崩れると)、常在菌(悪玉菌)による感染症が引き起こされてしまうのです。

 

さらにアトピー性皮膚炎の犬では、腸内細菌叢もその多様性が失われていて、細菌数が減少し悪玉菌が増えていたという報告があります。

 

ヒトの炎症性腸疾患などに対して行われている糞便移植療法が、アトピー性皮膚炎の犬の臨床症状の改善に有効であったという研究報告もあります。 

 

 

アトピー性皮膚炎は、遺伝的な素因が背景にあって、環境中のアレルゲンに対して過敏反応を示し、皮膚に慢性的な炎症痒みの症状が認められる疾患です。

 

皮膚の乾燥によって皮膚のバリア機能が障害され、同時に皮膚への様々な刺激によって、痒みの知覚神経が真皮から本来はないはずの表皮内にまで伸びてきます。

 

そのため外的刺激に敏感となり、本来なら感知しないようなわずかな刺激でも、痒み(痛み、違和感)として、感じるようになるのです。

 

そのせいで、皮膚を『掻く』動作が誘導され、皮膚(表皮の角質層)が破壊されて皮膚バリア機能が低下するという、痒みと掻き壊しの悪循環に陥ります。

 

痒くても掻いちゃダメ😖なのは、そういう理由です。

 

さらに、皮膚の掻き壊しによって表皮細胞が障害されると、免疫細胞が神経成長因子(NGF)サイトカインなどを産生し、神経成長因子は、真皮内の肥満細胞から痒みの原因物質であるヒスタミンを放出させ、痒みを増強させるのです。

 

 

IgEが産生されやすくI型アレルギーが起きやすいことが、アトピー性皮膚炎の特徴です。

 

さらにアトピー性皮膚炎では、遺伝的にフィラグリンというタンパク質が不足していて『天然保湿因子』が十分に作られず、『角質細胞間脂質(セラミド)』を作る働きも低下しているために、皮膚が水分を保持できずに乾燥しがちで、隙間の多いスカスカでカサカサな皮膚になってしまうようです。

 

一方、アトピー性皮膚炎と同様な皮膚症状を示しながら、IgEの増加や皮内反応陽性所見が認められない、アトピー様皮膚炎も存在します。

 

 

治療のためには、乾燥した皮膚の早期の改善(皮膚バリア機能の回復)が重要です。

 

⚫︎皮膚を清潔にし、保湿するスキンケア

⚫︎炎症や痒みを抑える薬物療法

⚫︎食事療法(療法食、サプリメント)

⚫︎ダニやノミ、食物などのアレルゲン、過剰な皮脂や汚れ、皮膚感染症などの『悪化要因』を減らす対策

 

 

アトピー性皮膚炎の症状を悪化させる大きな要因の1つが、皮膚の常在菌の1種、『黄色ブドウ球菌』です。

 

健康な皮膚では、多くの常在細菌がお互いに牽制し合いながら角質層に存在し、皮脂を脂肪酸(抗菌作用)とグリセリンに分解して皮膚を弱酸性に保ち、弱アルカリ性を好む黄色ブドウ球菌や真菌(マラセチア)の増殖を防いでいます。

 

けれど乾燥した肌では、常在菌の代表格である表皮ブドウ球菌が棲みにくく、皮膚がアルカリ性へと傾きやすくなっています。

 

そのため、アトピー性皮膚炎では黄色ブドウ球菌の感染が起こりやすく、それがさらに炎症を悪化させ、痒みがひどくなる原因となります。

 

 

同様に、ノミや食物などのアレルゲンを可能な限り避けることも、痒みを悪化させないためには重要です。(アレルゲンを知るための検査が必要です)

 

外部寄生虫や食物アレルゲンの回避はそれほど難しくないでしょうが、ハウスダストマイトを完全に無くすことは不可能です。

 

 

アトピー性皮膚炎は、基本的には治りませんし、痒みが全くなくなることもありません。

 

治療はおそらく一生涯続き、その目的は痒みの管理です。

 

病気というよりもその子の個性の1つとして、向き合っていただきたいと思います。

 

痒みの悪化の原因は個々のケースで異なりますので、治療プランも異なります。

 

飼い主様の負担が大きくて大変でしょうが、できる範囲で治療をして、痒みが少なくなってその子が楽になれるように、私たちも考えながら一緒に頑張りたいと思っています。

 

 

 

以上、動物たちの健康管理のご参考にしていただけましたら幸いです。😊

  

 

 

 

 

※時々お問い合わせをいただくのですが、診察を伴わない個々のご質問にはお答え致しかねます。申し訳ありません。