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感染症の検査

感染症の検査/長谷川動物病院
    環境中に存在する病原微生物 / 太幸製薬HPより

 

新型コロナウイルスのパンデミックが始まってから、感染症検査の専門用語を耳にする機会が増えたように思います。

 

抗原、抗体、PCRとか、聞いたことありますよね?

 

 

感染症は、大気、水、土壌、人や動物の体内や体表などの、環境中に存在する病原性微生物(病原体)が、人や動物の体内に侵入することで引き起こされる疾患です。

 

感染は、病原体が体内に侵入して定着し、増殖することで成立します。

 

なので、侵入しても体内の免疫反応によって打ち負かされて、定着や増殖できなければ感染は起こりません。(それでもPCRで検出されてしまうことはあります)

 

さらに、感染しても症状を発症しない不顕性感染(無症状感染)も存在します。

 

一般に感染しても必ず発症するとは限らず大部分は不顕性感染となるようです。

 

弱毒生ワクチンは、人為的に不顕性感染を起こさせて免疫を獲得させるように、臨床応用されたものです。

 

 

細菌真菌(カビ)ウイルス寄生虫、その他(リケッチアなど)の、病原性微生物に感染しているかどうかを調べるためには、血液糞便体液が検体として使用されます。

 

この場合の体液とは、感染を受けた臓器の分泌液(胸水・腹水、精液、鼻汁、膿汁、尿など)、拭い液(咽頭、結膜)、脳脊髄液などです。

 

今回は、感染症の検としての、抗原検査、抗体検査(IgM、IgG)、PCR(遺伝子)検査、細菌培養同定検査についてお話しします。

 

 

1)抗原検査

血液、糞便、鼻汁、唾液、眼脂(眼やに)などを検体材料として、主にウイルス感染症で行われます。

 

体内にそのウイルスに感染した痕跡(ウイルス抗原)があるかどうかを調べます。

 

病原体そのものではなく、病原体が持つ特有のタンパク質を検出する検査です。

 

感染後、抗体が出現するまでの感染初期で検出率が高く、PCR検査と同様に、現在感染しているかどうかを知ることができます。

 

一般的に、短時間で検査が可能というメリットがある反面、PCR検査よりも精度が劣り、感度(陽性を見逃さない確率)も高くないとされています。

 

また、猫白血病ウイルスのように、過去に感染していてもその後の免疫反応によって抗原が排除され、陰性になることもあります。

 

⚫︎猫白血病ウイルスの検査は、他の猫との接触後1ヶ月以降に行うことが推奨されています

 

 

 

2)抗体検査

血液検査で、過去にその病原体に感染していたか、またワクチンの効果が十分あるかどうかを調べる検査です。

 

自然感染による免疫と、ワクチンによる獲得免疫との区別はできません。

 

自然感染の感染初期には検出されず、体内に抗体ができるまでには時間がかかるため、現在そのウイルスに感染していないことの確認には向きません。(陰性または抗体レベルが低くても感染していないとは限らない)

 

抗体は、体内に侵入した病原体(の中の抗原)と結びつくことで、免疫細胞(好中球やマクロファージなど)を活性化して体内から排除するように働きます。

 

数多い抗体のうち、病原体を排除し感染を防ぐ働きを持つ抗体が中和抗体です。

 

抗体とは体の中で作られるタンパク質で、免疫グロブリンとも呼ばれていて、血液検査のγ-グロブリンのほとんどを占めます。

 

そのうち検査の対象となるのは、IgM(アイジーエム)IgG (アイジージー)の2つです。

 

IgM

病原体に感染した時に、1番最初に作られる抗体です。

検査で検出可能になるのは、発症後2週目頃からとされています。

検出期間は発症後2~4週にかけてで、それ以後は検出されなくなります。

なので、検出された場合は現在進行形の感染であると言えるでしょう。

 

IgG

全免疫グロブリン中の80%を占め、一般的な抗体検査とはIgG抗体を調べる検査を言います。

感染症、腫瘍、自己免疫疾患を含む、様々な抗体産生系の異常をきたす疾患のモニタリングに用いられています。

感染後IgMが生成され、慢性化するに従ってIgGが遅れて生成され、比較的長期間持続するとされています。

持続期間は病原体によって異なり、数ヶ月~数年と言われています。

新型コロナは、残念ながら短いようですね。

IgGの抗体価が低下してくると再感染する可能性が高まるため、ワクチン接種によって再度免疫を獲得することが推奨されます。(ワクチン抗体価検査

生後2~4ヶ月間は母体からの移行抗体が存在するために、母子免疫と、ワクチンや自然感染による獲得免疫との区別が困難です。

生後4~5ヶ月以降の検査が推奨されます。

 

⚫︎猫免疫不全(猫エイズ)ウイルスの検査は、他の猫との接触後2ヶ月以降に行うことが推奨されています

 

 

 

3)PCR検査

定性検査(+ or -)と定量検査(数値)があり、現在感染しているかどうかを知ることができます

 

PCRとは、正式名の『ポリメラーゼ連鎖反応』(Polymerase Chain Reaction)の略で、病原体の遺伝子(DNA:デオキシリボ核酸)を増幅させて検出する検査です。

 

血液、糞便、腹水・胸水、尿、鼻汁、脳脊髄液、病変部組織などの検体からの微量の遺伝子(DNA)を増やして、検出率を向上させています。

 

そのため、感染ではなく付着しているだけの病原体まで拾い上げてしまう可能性があります。

 

ワクチン株と天然株の鑑別はできませんし、病原体によっては感度の低い検査も存在します。

 

病原体によっては出現する時期や組織が異なるために、検体から検出されなくても全身感染が否定できない場合もあります。(トキソプラズマなど)

 

PCR検査は、下痢や神経症状などの症状の原因の特定を行いたい時に推奨されます。

 

 

 

4)細菌培養同定検査

一般細菌、嫌気性菌、糞便、血液、真菌の培養を行い、原因となっていると思われる菌を検出します。

 

検出された細菌や真菌のタンパク質の成分の違いを分析し、原因細菌の同定を行います。

 

通常、報告まで1週間ほど時間がかかります。(真菌は最長40日)

 

原因菌を知りたい時に行われますが、薬剤感受性検査の方が簡易的でより短期間にわかるので、併用することが推奨されます。

 

 

 

※時々お問い合わせをいただくのですが、診察を伴わない個々のご質問にはお答え致しかねます。申し訳ありません。