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門脈体循環シャント

門脈体循環シャント/長谷川動物病院
  門脈の血液の流れ(ヒト)/肝臓検査.com HPより

 

門脈は、小腸盲腸結腸脾臓膵臓からの血液(静脈血)を集めて、肝臓に送る太い血管です。

 

門脈を流れる血液中には、消化管から吸収された栄養と共に、老廃物や毒素が含まれています。

 

本来、門脈からの血液は肝臓を通過する際に肝細胞によって代謝や解毒などの作用を受け、後大静脈(ヒトでは下大静脈)から心臓に送られてゆきます。

 

門脈は肝臓に送られる血液の2/3が通る血管で、静脈ですが、腸から運ばれてくる栄養素は肝臓にとって重要な栄養源です。

 

体循環とは、心臓から血液(動脈血)が全身へ運ばれ、全身臓器(毛細血管)を経て静脈血となり、再び心臓へ戻る血液循環のことです。

 

動脈血には酸素が多く含まれ、静脈血には二酸化炭素などの老廃物が多く含まれています。

 

シャントとは、血液が本来流れるはずの血管から外れて、別のルートを流れる状態です。

 

門脈体循環シャントは、門脈につながる血管と体循環系の血管(後大静脈や奇静脈など)との間に、本来ないはずの異常な血管(シャント血管)が存在する、or形成される病気です。

 

そのため門脈を流れるはずの血液がほとんど肝臓を通過せずに、全身に送られてしまいます。

 

門脈の血液が入ってこないと、肝臓は栄養失調になり小さく萎縮してしまいます(小肝症)。※猫ではあまり目立ちません

 

また、アンモニアやエンドトキシンなどの毒性物質が、肝臓で解毒されないまま全身に送られるので、意識障害や痙攣発作などが引き起こされる場合があります(肝性脳症)。

 

 

原因)

先天性出生後に消失するはずだった胎児期の血管がそのまま残る

後天性 : 肝硬変などによる門脈圧の異常な上昇(門脈圧亢進症

 

先天性

若齢からの発症が多いですが、シャント血管のタイプによっては比較的高齢になってから(無症状で偶然に)見つかる場合もあります。

 

脾静脈ー横隔膜静脈シャント(37.2%)、脾静脈ー奇静脈シャント(22.1%)、右胃静脈ー後大静脈シャント(16.9%)、脾静脈ー後大静脈シャント(12.2%)だったという報告があります。

 

症状は、シャント血管のできている場所や太さによって異なり、無症状~肝性脳症まで様々です。

 

発育不良(小さい)小肝症(犬:84%、猫:22%)神経症状(ふらつき、旋回運動、痙攣発作)、消化器症状(食欲不振、嘔吐、よだれ)、一過性の盲目、尿石症(70%)、高アンモニア血症、腎臓の腫大などの症状が認められます。

 

肉類を食べた後に、嘔吐や神経症状が現れやすいです。

 

野菜好きで、特にカボチャや芋類などの炭水化物が好きという特徴があります。

 

シャント血管は、肝臓の中にあるタイプ(肝内性シャント)と、肝臓の外にあるタイプ(肝外性シャント)に分類され、血管の数も1本~複数の場合があります。

 

肝外性シャント:小型犬

肝内性シャント:大型犬に多い

 

犬では、ヨーキー、マルチーズ、シーズー、M.シュナウザー、T.プードル、パピヨン、ラブラドールレトリバー、バーニーズマウンテンドッグなど。

 

猫では、アメリカンショートヘアー、ペルシャ、ヒマラヤン、バーミーズなどで発生が多いとされています。

 

潜在精巣(多くは半陰睾)との関連性が指摘されていて、犬では併発している確率が50%に達するという報告があります。

 

 

後天性

中年齢以降での発生が多く、門脈血圧の異常な上昇への対応策として、続発性にシャント血管が形成されます。

 

慢性肝炎、肝線維症、肝硬変、腫瘍などによる、門脈圧亢進症に伴って発生します。

 

肝硬変になると、線維化によって肝臓組織全体が硬くなり、門脈の血液が肝臓を通過することが難しくなります。

 

そのため、肝臓を迂回するように新しい静脈(側副血管)が形成され、血液が送られるようになります。

 

交通渋滞緩和のために、新しく迂回路となる道路が作られるようなものです。

 

先天性と同様な症状が認められますが、後天性特有の症状もあります。

 

門脈圧の上昇によって、脾臓から門脈へ血液が流れにくくなると、脾臓に血液が溜まったまま大きく腫れたり(脾腫)、全身から血球成分(赤血球、白血球、血小板)の減少が起こることがあります。

 

さらに圧力(内圧)によって、肝臓や腸の表面(血管)から液体成分が滲み出て腹部に水が溜まる、腹水が見られることもあります。

 

この腹水や胸水は、肝不全による低蛋白(アルブミン)血症によっても生じ、さらに低血糖による低血糖発作や、血液凝固因子の産生低下による血液凝固異常が引き起こされることもあります。

 

慢性肝炎の好発犬種(コッカー、ラブラドールレトリバー、ドーベルマン、ベドリントンテリア、ウエスティなど)は、定期的な血液検査や画像検査が推奨されます。

 

また好発品種以外でも、肝酵素の上昇が数ヶ月にわたって持続する時は、高アンモニア血症や腹水などの症状がないかどうか、気をつける必要があります。

 

 

検査)

血液検査:肝酵素(ALT,ALP)の上昇、食前/食後総胆汁酸やアンモニアの上昇、総コレステロールとBUNの低下など

 

画像検査:レントゲンや超音波検査による門脈周囲の腫瘍の有無の確認

     超音波検査やCTによるシャント血管の描出

 

 

治療)

臨床症状の認められる先天性(肝外性シャント)では外科手術が、後天性では内科療法が第一選択です。

内科療法では、肝性脳症や腹水の治療が主体となります。

 

①内科療法

輸液、投薬(ラクツロース、抗菌剤、消炎剤、利尿剤、抗痙攣薬など)、食事療法など

 

②外科手術:シャント血管の結紮

 

③併発疾患の治療

大量の腹水貯留では腹腔穿刺による腹水吸引を、尿石症では結石除去手術、血液凝固異常がある場合は輸血を行います。

 

 

  

 

以上、動物たちの健康管理のご参考にしていただけましたら幸いです。😊

  

 

 

 

※時々お問い合わせをいただくのですが、診察を伴わない個々のご質問にはお答え致しかねます。申し訳ありません。