· 

変形性関節症の診断と治療

変形性関節症の検査と治療
   ひざ関節の構造 / heathcare omron HPより

 

近年の報告によると、犬の約20〜25%、猫の約60〜90%に、変形性関節症が存在することが明らかになっています。

 

骨や関節の持続する炎症(骨関節炎)は、骨や関節に不可逆的な変化(元の状態に戻らない)をもたらし、痛みを伴う運動障害が引き起こされます。(変形性関節症)

 

その時、関節内では炎症によって関節液(炎症性浸出液)が多量に分泌され、関節内での潤滑剤の役目をする関節液(滑液)が薄められて粘稠度が低下し、そのために滑液の軟骨保護作用が機能しなくなります。

 

軟骨が傷つくと炎症が起こり、白血球が活性化されて血液が固まりやすくなります。(血液凝固促進)

 

そのため小さな血管が詰まって、骨に栄養が届かなくなると骨が壊死したり、関節の構造が不安定になって、骨同士が直接ぶつかり合うようになります。

 

さらに、白血球や滑膜細胞から分泌されるタンパク分解酵素の働きで軟骨が分解されてしまい、ますます保護機能を失います。

 

このように骨関節炎から変形性関節症へ病態が悪化してゆき、痛みと、関節可動域の制限による運動機能障害が引き起こされます。

 

 

診断は、問診、触診、レントゲン検査などによって行われます。

 

レントゲン検査では、軟骨の状態の評価が難しいです。

 

けれど進行するにつれて、軟骨が付着している骨の部分の硬化骨棘形成、炎症性の関節液による関節包の腫れや、関節腔内に遊離する骨のかけら(関節ネズミ)などの所見が認められるようになります。

 

関節ネズミは、関節腔内を浮遊している時には痛くありません。

 

けれど、狭い関節腔内で挟まったりして骨を刺激すると、炎症が起きて強い痛みを引き起こし、関節の可動範囲を狭めます。

 

関節ネズミの移動によって、痛みがひどくなったり治ったりするのです。

 

さらに関節ネズミは、関節液から栄養を吸収して大きくなることもあります。

 

 

また高齢犬の脊椎部分には、例え無症状でも椎骨同士のブリッジ形成が認められることが多いです。

 

犬の変形性脊椎症は、1割弱しか症状を表さないとされています。

 

けれど変形性腰仙椎狭窄症(馬尾症候群)の場合は、強い痛みや麻痺、排尿障害などの神経症状を引き起こす可能性があり注意が必要です。

 

 

レントゲン所見)

①関節の隙間が狭い(関節軟骨がすり減っている)

②関節周囲の骨の変形:骨棘(骨が棘のように飛び出す)、骨硬化像(骨がより白く映る)、骨嚢胞(骨にできた空洞)など

③関節腔内の関節ネズミ(骨のかけらが浮遊して見える)

 

 

 

治療)

ペントサンナトリウム

7日おきに1回、合計4回の皮下注射による骨関節炎の症状の改善作用

 

▪︎軟骨細胞を刺激し、軟骨基質(プロテオグリカン)の産生を促進する

▪︎軟骨基質成分の分解に関与するタンパク分解酵素を阻害する

▪︎関節部位の血行を改善する 

▪︎滑膜細胞を刺激し、ヒアルロン酸(体重負荷の軽減に関与)の生合成を促進する  

 

骨関節炎の犬では、活発な白血球の遊走化によって関節静脈に血栓が形成されやすいです。

 

けれど、アスピリンなどの非ステロイド性消炎鎮痛剤(NSAIDs)は、このお薬の抗凝固作用を増強する恐れがあるため、併用を避けなければなりません。

 

副作用:まれに下痢、脱毛、一過性の嘔吐、食欲不振

 

注意:成長板が閉鎖していない若齢犬、関節リウマチ、感染性関節炎、神経性運動障害の子は使用できません。

※このお薬は、猫の特発性膀胱炎の補助的な治療薬としても期待されます

 

 

 

ベジンベトマブ(犬)、フルネベトマブ(猫)

1月に1回の皮下注射による痛みの緩和作用

 

これらのお薬は、抗NGFモノクローナル抗体製剤です。

 

NGF(神経成長因子)は慢性疼痛に関与するとされ、この薬はNGFと結合することにより、NGFが関与する疼痛シグナル伝達を妨げ、変形性関節症に伴う痛みを緩和する働きをします。

 

本来、関節の痛みは滑膜にある感覚神経を通して脳に伝わるだけで、関節軟骨には神経が存在しません。

 

けれど関節に炎症が起きると、NGF(神経成長因子)の働きで軟骨にも神経が多数伸びてきて痛みが脳に伝わり、さらにNGFは痛みを増幅して伝えるそうです。

 

このお薬は、NGFの働きを封じ込めることで痛みを感じ難くするお薬ですが、骨や関節に対する効果はありません。

 

あくまでも対症療法(鎮痛作用)としてのお薬です。

 

けれど、変形性関節症の1番の問題点は『痛み』ですから、特に猫では、長期間安全に使用できる鎮痛剤のお薬は、貴重な存在です。

 

高齢猫に多い、歯周病に伴う『痛み』からくる食欲不振に対しても、効果が期待できそうです。

 

モノクローナル抗体製剤は、非ステロイド系抗炎症剤(NSAIDs)と異なる作用機序により、猫や犬の肝臓、腎臓、消化器への負担を最小限に抑える治療薬です。

 

慢性腎臓病(ステージ1、2)の猫に対しても使用可能とされています。

 

反面、『痛み』は体からの危険を知らせるシグナルでもあります。

 

それを無くさせるということは、火災警報器を外すのと同じようなものです。

 

なので、使用中は今まで以上に体調の変化に気をつけてあげてください。

 

 

 

◆対症療法

非ステロイド性消炎鎮痛剤(NSAIDs)

・ステロイド剤

・サプリメント(アンチノールなど)

・体重管理

・環境改善(滑らない床、段差の解消など)

 

 

 

※時々お問い合わせをいただくのですが、診察を伴わない個々のご質問にはお答え致しかねます。申し訳ありません。