心臓は、規則的に拡張と収縮を繰り返す拍動によって、血液を全身に循環させています。
心臓の拍動は、規則正しいリズムで発生する電気信号が、刺激伝導系と呼ばれる『刺激が伝わる電線』を通って、心臓全体の筋肉に伝わることで起こります。
心電図は、この心臓の電気的活動を波形として記録したものです。
検査は、動物の四肢の付け根に電極クリップを取り付け、右側を下にして保定して、安静を保った状態で記録を行います。
心電図波形の横幅は時間を、縦の高さは電気の流れる力の強さを表していて、PQRSTの一連の波形が1回の拍動に相当します。
そして特徴的な各波形の変化から、不整脈の診断を行います。
波形の横幅が長くなれば伝導時間が延長しているということ(伝導障害や血流障害)、縦の高さが大きくなれば心筋の肥大や心筋虚血が疑われます。
※胸壁の薄い動物でも高さの増高が見られるので注意が必要です
逆に、QRSの縦の高さが低い時は低電位差といい、心臓が胸壁から遠かったり、心臓と胸壁との間に電気を通しにくいものが存在していると、心臓の電気が体表の電極に届きにくくなって生じます。以下の原因が考えられます。
①心臓の周囲に水分が貯留している(心嚢水、胸水)
②肺の空気含量が増えた(肺気腫など)
③四枝に浮腫がある(心不全や低蛋白血症など)
④心臓の電気的刺激を発生させる力が減少した(心筋梗塞など)
⑤肥満、甲状腺機能低下症 など
けれど、心電図だけでは見つけることが難しい心臓病があったり、心臓病以外の病気でも波形の異常や不整脈を起こすことがあります。
甲状腺などの内分泌疾患や、肥満、発熱・炎症、貧血、胸水、低酸素症、電解質の異常、薬物、一部の腫瘍などです。
なので、血液検査やレントゲン検査、超音波検査などの、他の検査と合わせて総合的に判断する必要があります。
●心電図検査が行われる症状
①聴診時の心音異常(心雑音、リズム異常)
②急に発症した呼吸困難やショック症状
③失神や痙攣発作
④レントゲンで心肥大が認められた
⑤疲れやすい、動きたがらない、動くとふらつくなど
●心電図の異常所見
①電気軸・心臓の回転の異常
②波形・振幅の異常
③調律の異常(不整脈)
心臓の拍動の、規則正しいリズムが乱れる不整脈の診断は、心電図検査の最も得意とする所です。
心筋症や心筋梗塞などの心筋に異常が認められる疾患では、異常波形が記録されることが多くあります。
けれど弁膜症では、かなり進行してからでないと波形の変化は見られないことが一般的です。
また不整脈も、発作が起こっている時でないと心電図波形に変化が認められないことがあります。
なので、測定時の心電図波形が正常だからといって、心臓病がないとは言い切れないのも事実です。
●不整脈
心臓の電気信号は、右心房にある洞結節(洞房結節)から左右の心房を通って右心房内の房室結節へ、そこから左右の心室へと伝わっていきます。
刺激伝導系: 洞結節→心房内の電線→房室結節→ヒス束→左脚・右脚
洞結節は心臓を動かす最上位の司令塔で、房室結節はサブとして、洞結節の調子が悪くなった時や心房内の電気の流れが悪くなった時に代役となります。
刺激伝導系のどこかで電気の流れが途絶える時は、代わりに下位のどこかで電気刺激が発生して心臓を動かして、血流を維持させようと働きます。
これが補充調律で、補充調律がない場合は生命の危機となる場合があります。
どこの部分で、どのような異常が起きているかによって、不整脈は区分されます。
①洞結節に関連するもの(洞性)
②心房に関連するもの(心房性、上室性)
③房室結節に関連するもの(房室性)
④心室に関連するもの(心室性)
犬の1分間の心拍数は、60~180回、猫は140~220回くらいとされています。(人間は60~90回くらい)
不整脈は、脈が速くなるタイプ(頻脈性不整脈)と、脈がゆっくりになるタイプ(徐脈性不整脈)に分けられます。
①頻脈:洞性頻脈、心房細動、心房粗動、発作性上室性頻拍、上室性期外収縮、心室性期外収縮、心室頻拍、心室細動
②徐脈:洞不全症候群、房室ブロック(Ⅰ~Ⅲ度)、脚ブロック
リズムが乱れる『期外収縮』は、洞結節以外の場所から電気が発生して、勝手に動こうとするためにリズムが保てなくなります。
心室細動と心室頻拍は、致死性不整脈と呼ばれています。
症状)
不整脈は、たとえば呼吸性不整脈のような犬では治療の必要のないものもあり、それ以外でも正常な血流が保たれていれば無症状で経過することも多いです。
けれど重度の場合、脳や末梢組織への十分な血液供給が損なわれると、失神、ふらつき、呼吸困難、突然死などの症状が引き起こされることがあります。
また、心臓内の血液の流れが悪くなることによって、血液の塊(血栓)ができやすくなります。
治療)
抗不整脈薬による内科的治療、ペースメーカーの植え込み(紹介治療)
予防)
心臓以外の基礎疾患が主な原因となっていることが多いので、肥満や脂質代謝異常症を予防するために食事を改善したり、定期的な健康診断や画像検査で、病気の早期発見・早期治療を心がけましょう。
疲れやすかったり、少し動くとふらつくといった症状が見られる時には、お早めの診察をお勧めします。