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胸水貯留

胸水貯留 / 長谷川動物病院
  胸部横断面の模式図 (仰向けの図)/ 時事メディカルHPより

 

犬や猫や人間の体は、横隔膜で、胸部(胸腔)腹部(腹腔)に分けられています。

 

胸郭(きょうかく)とは、胸部を取り囲む鎧のような骨格で、背中側の胸椎、胸側の胸骨と側面の肋骨・肋軟骨からなります。

 

胸腔内の重要な臓器を外側から保護していますが、骨であるために、腹部と違って広がらないという欠点があります。

 

胸郭と横隔膜で囲まれた内部(胸腔内)で、肺以外の、心臓気管食道胸腺リンパ節リンパ管大血管神経が存在する中央の部分を縦隔と言い、左右の胸腔を隔てています。

 

縦隔は、薄い縦隔膜で、さらにその上を胸膜で覆われています。

 

縦隔は胸腔内に存在しますので、一般的に心臓や胸腺なども胸腔内臓器ですが、狭い意味(呼吸器外科)での、胸腔内の臓器は肺だけとされています。😥

 

左右の肺は、膨らんだ状態で胸腔に密着して存在します。厳密には、胸腔内面と肺の周り、縦隔の周りには胸膜が存在していて、密着しているのは胸膜同士です。

 

気管につながる肺の中に空気は存在しますが、胸腔内は真空状態です。 

 

今回は、そんな胸腔内(胸膜の隙間)に水分が貯留する胸水のお話です。

 

 

少量の胸水は、正常でも呼吸の時に動く肺と胸壁や他の臓器との摩擦を防ぐ目的で存在しています。

 

けれど病的に、隙間なく臓器の詰まった胸腔内という器の中に、お水が大量に溜まれば、増えた胸水の体積分もともとあった胸腔内の臓器が圧迫されます。

 

特に柔らかい肺は、もろに圧迫されて拡張できずに、呼吸困難となります。

 

いくらでも伸びて膨らむことができるお腹と違って、胸は骨で囲まれていて、広がることができませんからね。😢

 

 

胸水の貯留とともに症状が現れてきますが、原因によっては急に胸水の量が増して、急激に症状が発現することもあります。

 

浅い呼吸を多くするようになり、そのうち呼吸困難から死亡することもあり得ます。横向きに寝なくなり、咳や胸痛などがある場合もあります。

 

 

①常に口を開けて呼吸する

②呼吸の回数が多い(30回以上/分)

③体全体で大きく呼吸をする

④舌の色が青紫色(チアノーゼ)  

は、呼吸が苦しいサインです。見逃さないでください。🥺

 

 

診断は、聴診、打診、レントゲン検査、超音波検査などによって行われます。

 

胸水の量が多くて呼吸困難な状態の時は、呼吸を楽にしてあげるために、酸素吸入を行いながら、胸部に針を刺して胸水を抜き取る処置を行います。

 

胸水が溜まっていると、レントゲン画像上では、胸部が真っ白に塗りつぶされたようになってしまいます。

 

なので胸水を抜くと、胸部の様子がわかりやすくなるというメリットもあります。ダム湖の干上がった湖底のようです。

 

レントゲンや超音波検査から、胸腔内の腫瘍(がん)などの、胸水の原因がわかるかもしれません。

 

 

本来の胸水は、胸壁側の胸膜の細い血管から滲み出た血液の液体成分で、胸膜やリンパ管から回収され、最終的に心臓の右側(右心房)へ合流して、循環しています。

 

病的に溜まった胸水も、ただのお水ではなくタンパク質やミネラルを含んだ大切な体の栄養の一部です。

 

そのため抜き取ることなく体に戻してあげたいので、呼吸困難の時以外は、利尿剤ステロイド剤などによる内科的な治療(対症治療)が行われます。

同時に、原因疾患がわかればそちらの治療も行います。(原因治療

 

 

胸水が溜まる原因は

①過剰生産

②回収率低下   のどちらか、または両方です。

 

病的な胸水は、正常経路以外の血管から漏れ出たり、滲み出たりして溜まるか、胸膜炎などによって排水路が塞がれ、回収がうまくいかなくなって溜まります。

 

血管にはもともと水分が通れるくらいの隙間があり、強い圧力が加わったり、炎症反応によって隙間が広がったりすると、多くの水分が出て行ってしまいます。

 

長いホースで水撒き中に車のタイヤがホースを踏んでしまうように、大きくなった腫瘍(がん)に圧迫されて強い圧が血管にかかると、流れが止まり、血管から水分が漏れ出したり、場合によっては血管が破れたりするかもしれません。

 

 

さらに胸水は性状によって分類され、これが原因を知る手がかりとなります。

 

漏出液・ろうしゅつえき:心不全、心膜疾患、腫瘍(圧迫による循環障害)

           (以下腹水を伴う)肝硬変、腎不全、低アルブミン血症

 

滲出液・しんしゅつえき:肺炎、胸膜炎、腫瘍(癌性胸膜炎)、肺動脈塞栓症、ウイルス感染症、肺葉捻転、胸部外傷など 

 

 

心臓病による胸水貯留は、

a)肺血管からの漏出液

b) 右心房内圧が高すぎるために、排水溝から続く排出路から流れられないことによる回収率低下  

が考えられます。

 

共通するのは、心臓のうっ血です。(うっ血性心不全

 

心臓のポンプ機能が低下して、血液をうまく循環させることができなくなった結果、血液の渋滞(うっ血)が起こります。

 

一般的に犬の心臓病では、心臓の左側に異常があれば影響は肺に、肺水腫として、右側に異常があれば全身に、腹水として現れます。

   

全身→心臓右側(右心房→右心室)→肺→心臓左側(左心房→左心室)→全身

と血液は流れ、影響は異常場所の前方に現れるからです。

 

けれど、うっ血が激しければ肺の血管からの漏出液もあるのでしょう。

 

渋滞を避けて車が脇道に抜けるように、水分が血管から漏れ出てきます。

 

心臓の右側にフィラリアが寄生するフィラリア症や、右心房と右心室の間にある三尖弁がうまく閉まらなくなっても、腹水が溜まることがあります。

 

肝硬変(門脈圧亢進)、腎不全、低アルブミン血症などでも、胸水が溜まることはありますが、そのほとんどは腹水と一緒に溜まります。

 

原因は近くにあるはずなので、胸水だけが溜まる場合は、胸腔内の異常であると考えられます。

 

 

ちなみに、胸水肺水腫は似て非なるもの。混同されやすいですね。😉

 

胸水とは、胸腔内の臓器同士の隙間(胸膜腔)に、液体が貯留する病態。

肺水腫とは、肺の中の肺胞という酸素交換を行なっている場所に、液体が貯留する病態です。

 

つまり、胸水は肺の外に、肺水腫は肺の中に水が溜まる病気の症状の名前またはそのものです。病気の名前ではないのです。

 

 

胸腔内に貯留する液体は胸水以外に、

①血液(血胸・けっきょう)

②膿汁(膿胸・のうきょう)

③乳び(乳糜胸・にゅうびきょう) があります。

 

レントゲンや超音波検査では、その正体までは分かりません。

 

胸腔穿刺・吸引生検によって、その外観や細胞成分から原因が絞られます。

 

 

 

 

以上、ここまで読んでいただきまして、本当にありがとうございました。

 

動物たちの健康管理のご参考にしていただけましたら幸いです。😊

 

 

※時々お問い合わせをいただくのですが、診察を伴わない個々のご質問にはお答え致しかねます。申し訳ありません。