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褥瘡(床ずれ)の治療

褥瘡の治療/長谷川動物病院
     犬の床ずれ好発部位 / 子犬のへやHPより

 

動物も、年をとって寝たきりになったり、神経性の病気になると、寝返りなど、自分で体勢を変えることが難しくなります。

 

同じ姿勢を続けていると、寝床と接している体の同じ場所に体重の負荷(圧力)がかかり続けます。

 

寝床が硬めの材質の場合は尚更です。

 

このとき、同じ場所が強く圧迫され続けることで、血行障害が起こります。

 

そういう子たちは大抵あまり動かなくなって筋肉が落ち、少食で痩せています。

 

なので、クッションの役目をする骨の周りの筋肉や脂肪も少なく、肩や骨盤、お尻(坐骨)などの、出っぱった骨の部分に強い圧力が持続的に加わることによって、その部分の皮膚の血行障害が起こります。

 

さらに進行すると、その部分の皮膚の壊死が起き、動物が動くことで擦れて皮膚に穴が開きます。

 

これが、褥瘡(じょくそう・床ずれ)です。

 

さらにずっと室内にいても油断をすると、ハエが寄ってきてウジが湧いたり、細菌感染を引き起こすこともありますので、注意が必要です。

 

 

褥瘡はなかなか治りません。皆様苦労をされています。😔

 

そもそも痩せて栄養状態が良くない上に、動物が同じ体勢を取りたがるために、患部への圧迫を避けることが難しいからです。

 

 

なので治療は、強制給餌によって栄養状態を改善し、患部への圧迫を避ける対策を講じることになります。

 

褥瘡を治すためには、傷を覆う組織を作る細胞が必要。そのためには十分な栄養を、特にタンパク質を多く摂取してもらわなくてはなりません。

 

栄養失調では、治る傷も治りませんからね。😉

 

 

ところで、バナナは横にして置くよりも、吊るしておくと痛みにくいですよね?

 

同様に、患部への圧迫を防ぐためには、体を立たせておくか、いろいろな体勢を取らせた方が良いのです。

 

けれどこれは、動物側の反発が予想されます。

 

動物も、体が楽で安定する、好みの体勢があるのです。

 

低反発のマットレスなども有効ですが、車椅子や、後肢の歩行補助のための器具などもあった方がいいかもしれません。

 

動ける子はできるだけ歩かせて、動けない子は、血流を改善するために体全体のマッサージが有効です。傷を治すための材料は、血液によって運ばれてきますからね。

 

低反発マットは十分に厚みのあるもので、表面が摩擦の少ないツルツルで、汚物などの洗い流しが可能なものが理想です。

 

問題点が1つ1つ解決されれば、褥瘡の傷も治るはずです。

 

 

◆治療(湿潤療法)

 

①褥瘡の部分に毛がまとわりつかないように、広めに周りの毛をバリカンで短く刈ります。

②褥瘡全体を、温めた生理食塩水(お湯でも可)で洗浄して、汚れや余分な壊死部分を優しく洗い流します。(擦らない)

既に皮膚の下が袋状に広がってしまっている子は、麻酔下での外科処置が必要な場合もあります。

③周りの水分をタオルなどで吸い取らせた後、1日2回、抗菌剤軟膏(ワセリンでも可)を褥瘡部分に優しく塗りながら、壊死組織(カサブタの部分)を取り除きます。

④皮膚の縁も含めて患部を覆うように、(食品包装用)ラップをゆるく被せ、その上からさらに大きめのドレッシング剤などで覆ってテープで固定します。ラップ交換は良くなってきたら1日1回でもOKです。

 

これを回復まで続けます。毎日ですので、かなり根気のいる仕事です。

 

 

●『毛を刈っちゃうの?』と、思われる方もいらっしゃると思います。

確かに毛はある程度、皮膚を守るクッションの役割を果たしています。

けれど、汚れが付着した毛が傷口を汚染したり、毛のために皮膚をきれいに洗浄できないなどの不都合が生じますので、清潔に保つために毛刈りは必須です。

 

●褥瘡が排便や排尿によって汚染される場合は、感染症を防ぐために、その都度シャワーで洗い流すのが理想です。

褥瘡の赤っぽいピンク色の柔らかい部分は、新しく組織が作られている、赤ちゃんのような場所ですので、擦らずに優しく扱ってください。

 

●褥瘡に限らず怪我をしたときには、傷口からじわじわと液体が出てきます。

実は、これは傷を治すための材料で、とても大切な修復液(滲出液)です。

この滲出液は、乾燥させてしまうとカサブタとなって失われてしまいます。

なので有効活用するためには、乾燥させないように守ってあげなければならないのです。

 

●ガーゼを傷口に直接当ててしまうと

①大切な滲出液を吸い取ってしまう

②ガーゼの取り替えのために剥がすときに、とても痛いだけでなく、せっかく治りかけている組織を剥ぎとってしまう

ことによって、回復を遅らせてしまう場合があります。

 

●ドレッシング剤とは、患部にくっつかず、余分な水分や老廃物を吸い取ってくれる保護剤です。

けれど直接患部に当ててしまうと、摩擦によって傷ついて痛がったりしますので、薄い柔らかいラップで患部を保護します。

毎日使用するには高価ですので、お家にあるもので代用可能です。

おすすめは、おりもの吸収シートやペットシーツです。

 

●坐骨(お尻)の部分の褥瘡には、紙おむつを利用することも可能です。

ラップが固定しにくかったり、おむつが擦れて痛がるときには、荷物梱包用の業務用テープ(透明なガムテープ)かまたはラップを、おむつの褥瘡に当たる部分に広めに貼り付けて使用します。(テープの縁や角の部分が患部に当たらないように注意してください)

 

●傷口に消毒液を吹きつけるのは、初期に傷口が汚染されていてすぐに洗浄できない時などは有効です。

けれど継続して行うと、せっかく治ろうとしている新しい細胞を消毒剤が傷害してしまい、治りが悪くなります。

シャンプーに含まれている界面活性剤も同様に、細胞障害作用がありますので、使用の際はよく洗い流し、傷口に入らないように注意が必要です。

 

●褥瘡のできる子は、高齢で痩せていて免疫力が低下している子がほとんどですので、傷が化膿しているときは、抗菌剤の投与が必要です。

消毒液の使用や湿潤療法だけでは回復は見込めませんし、むしろ悪化して敗血症になってしまうかもしれません。

なので湿潤療法と並行して、抗菌剤の経口投与か、または注射投与を行います。

栄養状態の悪い子は、消化管からの吸収能力も低下していますので、注射による投与の方が効果的な場合があります。

 

 

 

 

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※時々お問い合わせをいただくのですが、診察を伴わない個々のご質問にはお答え致しかねます。申し訳ありません。