· 

脾臓の病気

脾臓の病気/長谷川動物病院
 脾臓の位置(胃を除く) /日本消化器外科学会HPより

 

脾臓は、体の中で一番といっていいほど、地味で存在感のない臓器です。

 

実際、なくても特に困ることはありません。肝臓と骨髄が、しっかり代役を務めてくれますから。

(ただし脾臓を摘出すると感染症のリスクは高まります)

 

私たちがその存在を実感するのは、走った後に左の脇腹が痛くなる時くらいでしょう。

 

あの痛みは、脾臓の収縮によるものです。😆

 

けれど普段目立たない割には、触診や画像診断などで脾臓の異常が見つかる機会は意外と多いと感じます。

 

皆様一様に、「脾臓?」と??な表情をなさいます。😅

 

 

脾臓は、血管につながったリンパ節のようなもので、血球の産生・貯蔵・処分(破壊)を行っている臓器です。

 

 

主な機能としては、

①循環血からの粒状物(異物)の除去(血液の濾過

②血液によって運ばれてくる抗原に対する免疫反応

③老化または欠陥のある血球を循環血中から除去する(血球破壊

リンパ球の産生や、非常時の血球産生

血液の貯蔵と、必要時の放出(自己血輸血) などです。

 

 

診察時に確認される脾臓の異常は、

●全体的に大きく腫れている場合(脾腫

●部分的に大きな場所がある場合(脾臓腫瘤)  があります。

 

 

腫瘤』またはMass(マス)とは、腫瘍かもしれないしそうでないかもしれない組織の塊(出来もの)を指す言葉です。

 

 

そして脾臓の病気は、腫瘍によるものと、腫瘍以外の原因によるものに分類されます。

 

なぜなら、『脾臓に腫瘤が見つかったとき、その2/3は腫瘍性の病変で、さらにその2/3は悪性腫瘍、またその多くが血管肉腫』という、2/3ルールというものが、獣医師の認識としてあるからです。(最近は、非腫瘍性と腫瘍性病変が半々と言われてきていますが)

 

なので脾臓に腫瘤が見つかると、私は『血管肉腫?』と一瞬、暗い気持ちになり、『まだ決まったわけではないから』と気持ちを切り替えるのが習慣になっています。多分、他の先生方も一緒でしょう。

 

 

1.非腫瘍性疾患

①脾腫:感染、炎症、うっ血、骨髄増殖性疾患、リンパ増殖性疾患、脾機能亢進

②脾臓腫瘤:結節性過形成、血腫、膿瘍

 

2.腫瘍性疾患

①良性腫瘍:血管腫

②悪性腫瘍:血管肉腫、間質肉腫、リンパ腫、肥満細胞腫、組織球肉腫など

 

 

脾腫

脾臓が全体的に腫れて大きくなりますが、脾臓自体の病気ではなく、他の病気の影響によって起こります。

脾臓が大きくなるのは、その内部に血液を多く含んでいるためであり、その分、循環血液中から赤血球と白血球と血小板が減り、貧血出血が起こりやすくなります。

 

脾機能亢進症

あらゆる原因による脾腫の結果、2次的に発生し得る病的な機能亢進です。

脾機能亢進症では、赤血球の他に白血球や血小板も、脾臓での破壊が亢進され、血球減少症が引き起こされます。

これらの血球の循環血液中での減少に反応して、代償性に骨髄過形成(機能亢進)が起こります。(網赤血球の増加)

脾臓の大きさは血球減少の重症度に相関し、重篤な症状(特に血小板減少症)が認められる場合には、脾臓摘出が推奨されます。

 

血腫

外傷結節性過形成血管肉腫などの原因によって、脾臓実質が壊されたときの出血や血液の貯留です。

 

結節性過形成

犬の脾臓の腫瘤病変としてはとても発生率が高く(猫では少ない)、病変の大きさは大きいものでは20㎝を超える場合もあります。

老年性の病変で、臨床症状はほぼなく多発性の場合もあり、超音波検査で偶然見つかるパターンが多いです。

大きいものでは腹部が膨満し、周辺臓器の圧迫による嘔吐や元気消失を呈することもあります。

 

血管肉腫

血管内皮細胞由来の悪性腫瘍で、心臓や皮膚(皮下組織)、肝臓、骨など、いろいろな部位で発生しますが、内臓の中では脾臓が一番多いです。

犬の脾臓の腫瘍では最も多く、犬では脾臓の悪性腫瘍はほぼ血管肉腫です。

(猫では、肥満細胞腫、リンパ腫、骨髄増殖性疾患が多く、血管肉腫は稀です)

脾臓内部に多発することもありますが、その場合は他の部位からの転移の可能性があります。

発生初期から血行性に高率に転移を起こす悪性腫瘍で、画像検査で見つからなくても、術後しばらくすると転移した腫瘍が現れてくることがほとんどです。

また身体中の血管に血栓を形成して血栓症の症状を呈する(血液凝固亢進)とともに、全身で出血が止まらなくなる(止血異常DICとなる場合があります。

脾臓摘出による術後の生存期間は1〜3ヶ月、術後に化学療法を行うことで6ヶ月程度となります。

 

 

脾臓は脆くて、その内部に大量の血液を貯留しているので、非腫瘍性疾患であっても壊れやすく、破裂による急激な大量出血は死を招く危険があります。

 

なので、腫瘍を疑う腫瘤の診療の時に行われる針吸引生検は、脾臓の場合は行われません。

 

実際、腹腔内出血を起こしてショック症状で来院されて、初めて脾臓の病変に気づくことがあります。

 

また非腫瘍性の病変や、腫瘍性病変の良性・悪性の違いは、見た目では全く判断できませんので、摘出後の病理検査で診断されます。

 

なので悪性腫瘍に限らず、良性腫瘍や非腫瘍性の病変であっても、異常が確認されれば全てにおいて脾臓摘出が推奨されます。

 

摘出しなければ、いつ爆発するかわからない爆弾をお腹の中に抱えて暮らすようなものです。🥺

 

悪性腫瘍以外では、脾臓摘出は根治的な治療となり、悪性腫瘍では緩和的な治療となります。

 

それでも、最後の時間を有意義に、一緒に過ごしてお見送りをすることはできるはずです。

 

 

 

※時々お問い合わせをいただくのですが、診察を伴わない個々のご質問にはお答え致しかねます。申し訳ありません。