· 

猫の心筋症の治療薬

猫の心筋症の治療薬/長谷川動物病院
    猫の心筋症 / 子猫のへやより

 

猫の心筋症は、臨床病態や心臓の形態的な特徴に基づいて、

拡張型

肥大型

拘束型

不整脈源性右室心筋症

分類不能型心筋症

 

に分類されます。

 

 

 

2020年、アメリカ獣医内科学会(ACVIM)は、猫の心筋症の診断・治療に関する世界的なガイドラインを発表し、心筋症のステージ分類を提唱しました。

 

 

猫の心筋症のステージ分類 (ACVIM)

Stage A:心筋症の素因があるが、現在は心臓に異常が認められない

Stage B : 心筋症に罹患しているが、臨床症状が認められない

B1:鬱血性心不全(胸水や肺水腫)や動脈血栓塞栓症のリスクが低い≒左心房拡大がない~軽度

B2:鬱血性心不全や動脈血栓塞栓症のリスクが高い≒左心房拡大が中程度~重度

B2では、ギャロップ音、不整脈、重度の左心房拡大、左心房・左心室収縮機能の低下、著しい左心室壁の肥厚、もやもやエコー/血栓、心臓壁の局所的な動きの異常などが認められる

Stage C:現在あるいは過去に、鬱血性心不全や動脈血栓塞栓症を発症した(治療により改善したものも含む)

Stage D:治療に抵抗性の鬱血性心不全が存在する

失神、心室性不整脈、左心房拡大、左室壁の局所的菲薄化は、突然死のリスク因子

 

 

このガイドラインによって、現在の状態や予後予測、治療方針の決定が、以前よりは、明確になりました。

 

けれど現時点においても、利尿剤や抗凝固剤以外の、一貫した推奨される薬物治療は確立されていないのが実情です。

 

なので現状では、ヒトでの報告を参考に、個々の病態に応じて適切と思われるお薬を、投与後の反応を確認しながら投薬していただいています。

※以下に示す全てのお薬が処方されるわけではありません💦

 

 

猫の(肥大型)心筋症の主な治療薬(内服薬)

ACE阻害薬:ベナゼプリル、エナラプリルなど

β遮断薬:アテノロール、カルベジロール

カルシウム受容体拮抗薬:ジルチアゼム、アムロジピン

利尿薬:フロセミド、トラセミド、スピロノラクトン

抗凝固剤:クロピドグレル、リバーロキサバン

強心薬:ピモベンダン

 

 

ACE阻害薬

血管収縮抑制による後負荷(圧負荷)軽減作用や、心肥大抑制効果を期待して用いられます

 

レニン-アンギオテンシン-アルドステロン系は、急激な血圧の低下時に生命維持の目的で活性化し、全身の血圧を上昇させる働きをします。

 

けれど、血液循環が悪化した心不全の状態でも発動し、これによってさらに心筋肥大が加速するという悪循環に陥ることになります。

 

さらに、心臓の血管組織に広く分布するミネラルコルチコイド受容体を介した心筋の線維化が起こり、心筋が硬くなり柔軟性が失われます。(リモデリング)

 

レニン-アンギオテンシン-アルドステロン系は、心臓肥大や心不全の増悪因子として働くため、これを抑制する目的で、アンギオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬)アルドステロン拮抗薬が用いられています。

 

 

β遮断薬

心臓機能の低下によって血流が悪化すると、全身の血液循環を維持するために交感神経系が賦活化され、β受容体刺激によって、心拍数が増加し心筋の収縮力が増強されます。

 

けれど実際には、心拍数の増加によって心臓から押し出される一回の血液の拍出量は少なくなり、心筋の肥厚が促進されるという不都合な状況となってしまうので、β遮断薬はそれを防ぐ目的で用いられます。

 

心拍数が多い時は、心臓は大きく膨らむことができません。

 

シンバルで、1小節をジャーンの全音符と、ジャジャジャジャジャジャジャジャと8分音符で演奏する姿を想像してみてください。構える両手の位置や動きが全く違いますよね?

 

早すぎると1音くらい飛んでしまうかもしれません。(不整脈に相当)

 

β遮断薬は、8分音符を全音符に変えるほどの効果は期待できませんが、心拍数を減らさせることで、心臓がきちんと拡張と収縮を行うための時間的な余裕を与える目的で使用されるお薬です。

 

ただし同時に、心筋の収縮力を弱めてしまいますので、使用には注意が必要です。

 

左室流出路障害のある場合はアテノロールが有用である可能性が報告されています。

 

アテノロールは抗不整脈作用も期待され、ヒトでは、心不全の予後改善効果が認められています。

 

 

カルシウム受容体拮抗薬

細胞内へのカルシウムイオンの流入を抑制することで、血管拡張作用や心拍数の減少作用を期待して用いられます。

 

細いストローと太いストローで同じ量の飲み物を飲む場合、太いストローの方が楽に吸えますよね?

 

同様に、血液を送り出す時には血管は太い方が、心臓は楽なのです。(後負荷の軽減)

 

アムロジピン:血管拡張作用→強、 心拍数・心筋収縮力抑制作用→弱

ジルチアゼム:心臓の冠血管拡張作用あり、心拍数・心筋収縮力抑制作用あり

 

ヒトでは、ジルチアゼムは心拍数や血圧に影響を与えずに、左心室の早期リモデリングを改善させたという報告があります。

 

 

利尿薬

鬱血性心不全(肺水腫や胸水による呼吸困難を改善する目的で使用されます。

 

猫では慢性腎臓病を併発する子も多く、利尿薬の使用には注意が必要です。

 

利尿薬のスピロノラクトンはアルドステロン拮抗薬でもあり、ACE阻害薬と同様の効果が期待されますが、猫では潰瘍性の顔面皮膚炎が認められることがあります。

 

 

抗凝固剤

肥大型心筋症では高率に血栓の形成が認められ、動脈血栓塞栓症は予後不良因子とされ、その抑制には延命効果が期待されます。

 

左心房拡大の認められる子に対して推奨されます。

 

使用にあたっては、外傷、口腔内出血、消化管出血などに注意が必要です。

 

 

強心薬

鬱血性心不全に陥り、心筋の拡張機能だけでなく収縮機能の低下が認められた時に用いられます。

 

ただし、収縮期前方運動(SAM)の認められる子には使用は推奨されません。

 

 

 

※時々お問い合わせをいただくのですが、診察を伴わない個々のご質問にはお答え致しかねます。申し訳ありません。