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猫の甲状腺機能亢進症の治療

猫の甲状腺機能亢進症の治療/長谷川動物病院
  猫の甲状腺と上皮小体(副甲状腺)/子猫のへやより

 

猫の甲状腺機能亢進症の治療法は、

①外科切除

②内科治療

③療法食    の3つです。

 

 

今回は診察室でお話ししきれない補足のお話です。

 

 

外科切除

腫大した甲状腺が触知できる場合には、外科切除が第一選択となります。

 

甲状腺が触知できないのは、大きさが小さい場合と、前縦隔洞に入り込んだ場合が考えられます。

 

このような場合の手術の実施は難しいです。

 

猫の甲状腺腫瘍は、悪性の場合(甲状腺癌)でも、局所侵潤や遠隔転移をすることは少なく、手術後に局所再発することもほとんどないと言われています。

 

そのため、手術によって腫大した甲状腺を切除できれば、猫の寿命の範囲で根治が期待できます。

 

手術時に、上皮小体(副甲状腺)を一緒に切除しないように注意が必要です。

 

また、手術の前に内科療法によってホルモン異常が是正され、心血管系の症状が改善され、腎不全が顕在化していないことが望ましいです。

 

 

内科療法

a)甲状腺ホルモン濃度を正常化し、全身状態を改善させて、麻酔や手術のリスクを低減させる

b)隠されている腎臓病の存在の有無を明らかにする

c)長期の維持治療

 

これらの目的で、甲状腺ホルモンの合成抑制薬(チアマゾール)を、継続的に経口投与します。

 

このお薬は、新たな甲状腺ホルモンの合成を抑制しますが、投薬によって問題の甲状腺がなくなるわけではありませんので、生涯の継続投与が必要です

 

また、既に合成・貯蔵させているホルモンに対しては作用しません。

 

甲状腺は、濾胞という細胞外腔にホルモン(不活性型)を多量に蓄えています。

 

大きく腫大した甲状腺ではなおさらです。

 

田んぼが濾胞で、田んぼの畦道が甲状腺細胞、田んぼの中に甲状腺ホルモンが蓄えられているような感じです。

 

なので、蓄えられているホルモンがなくなるまでに時間がかかり、その間は、お薬の効果が認められないのです。

 

一般的に、投与開始から効果が認められるまでには、1~3週間ほどかかります。

 

また、体重や症状、血液中のT4濃度によって、投与量の調節が必要です。

 

副作用としては、食欲不振や嘔吐などの消化器症状(11%)、肝酵素上昇(6.9%)、顔面掻痒(2.8%)、腎機能障害(BUN,Cre↑)(3.0%)、白血球の一種である顆粒球の減少(0.9%)などが認められることがありますので、定期的な血液検査が推奨されます。

 

明らかな副作用が認められた時には、チアマゾールの投与を一旦中止していただきます。(長期に及ぶ場合は、血圧降下剤などの投与が必要になる場合があります)

 

チアマゾールの投与中止後、48時間で甲状腺ホルモン(T4)濃度は治療前のレベルに戻ります。

 

各副作用は、投与中止後数日〜数週間後に改善しますので、低容量から投与を再開していただきます。

 

 

 

●補助療法

1)ステロイド剤

治療薬の効果が認められるようになるまでの期間、繋として、T4分泌を抑制する作用のあるステロイド剤を併用投与する場合があります。

 

ステロイド剤によって、euthyroid sick syndrome 状態を誘導して、甲状腺機能亢進症の症状を軽減させるのです。

 

高血糖感染症腎不全などの、ステロイド剤投与が躊躇われる問題がなければ、投与を考慮します。

 

 

2)β遮断薬

甲状腺機能亢進症の猫で認められる高血圧や、頻脈、興奮は、甲状腺ホルモンの作用ではなく、交感神経刺激を介したものです。

 

なので、交感神経刺激を抑制するβ遮断薬は、血圧や頻脈、興奮を正常化させることが期待できます。

 

ただし、既に鬱血性心不全になってしまっている猫や、明らかに心拍出量が不足している猫では、β遮断薬は禁忌ですので注意が必要です。

 

 

3)その他

猫では、両側の甲状腺を摘出しても甲状腺ホルモンの補充療法が必要になることは稀です。

 

けれどこの場合、術中術後の上皮小体の障害による致命的な低カルシウム血症には十分な管理が必要です。

 

また、甲状腺機能亢進症は消耗性疾患ですので、治療初期の補助療法として、ビタミンB群やビタミンCなどの水溶性ビタミン剤の投与も推奨されます。

 

 

療法食

症状が軽度の場合は、療法食の給餌のみで症状が改善される場合があるようです。

 

ただしこの場合、他のフードやおやつは一切あげられませんので、慢性腎臓病など、他の併発疾患がある場合は難しいです。

 

 

 

猫の甲状腺機能亢進症では、殆どが高齢であるために、予後は甲状腺よりもむしろ腎臓病や心臓病など、その子の併発疾患によって左右されます。

 

特に慢性腎臓病を併発している子は、治療によって甲状腺機能亢進症が改善されると、腎臓への血流が減少して隠れていた腎臓病が表面化したり、高窒素血症が悪化することが多く認められています。

 

このような時は、甲状腺機能亢進症の治療とともに、慢性腎臓病に対する治療をしっかりと行わなければなりません。

 

 

※時々お問い合わせをいただくのですが、診察を伴わない個々のご質問にはお答え致しかねます。申し訳ありません。