皮膚や皮下にできる犬や猫の肥満細胞腫は、基本的に全て悪性腫瘍です。
けれど、手術で根治できる悪性度の低いものから、どんな治療にも反応せず急激に進行する悪性度の高いものまで、バリエーションがあります。
治療法は、切除組織の病理検査によって診断される悪性度(グレード)や、進行具合(ステージ)などによって左右されます。
今回は皮膚や皮下にできた肥満細胞腫の治療法についてお話しいたします。
●治療法
1)局所療法
①外科切除
②放射線照射
2)全身療法(内科療法)
①抗がん剤
②分子標的薬
③ステロイド剤
肥満細胞腫の治療にあたり、まずこれから行う治療は根治を目指すのか、それとも緩和治療なのかということを、はっきりさせる必要があります。
根治を目指すならば、多少の機能障害や外見の不都合に目を瞑らなければなりません。
肥満細胞腫は、見た目よりも広範囲に周りの組織に浸潤している可能性が高いからです。
そのため、水平・垂直方向ともに、見た目の腫瘍よりもさらに2~3㎝の余裕を持って切除することが求められています。
それでも、場合によっては取りきれないケースもありますし、そもそもそんなマージンが取れない場所にできていることもあります。
そんなときは、さらに外科的に広範囲切除を行うのか、内科療法に切り替えるのかの選択になります。
悪性腫瘍の治療は、肥満細胞腫に限らず、要所要所で飼い主さまに治療法の選択をしていただかなければならないことが多いです。
ときには難しい選択を迫られることもあるでしょう。心の準備をお願いいたします。
1)局所療法
①外科療法
完全切除(広範囲切除)や減容積切除(大きな腫瘍や自壊している腫瘍のみの切除などの緩和治療)の目的で行われます。
1つ、または少数の小さな腫瘍であれば、完全切除が望めます。
けれど、顔面や会陰部、足先などの広範囲切除ができない場所にできた腫瘍に関しては、できるだけ切除して内科療法の併用をお勧めします。
また、腫瘍が多数であったり、発赤や炎症が認められ周囲に侵潤していて高グレードが疑われる場合には、基本的に外科療法は適しませんので、内科療法をお勧めいたします。
②放射線療法
外科手術が難しい場所(脳や心臓など)にできた腫瘍とか、大きすぎて手術ができない場合や、外科手術で取りきれなかった場合に、腫瘍の縮小や再発を遅らせる目的で局所への照射が行われます。
照射部位では正常な細胞もダメージを受けますが、腫瘍細胞の方が正常な細胞よりも放射線に弱いのです。
根治療法ではなく緩和的な治療法です。
治療可能な病院施設は限られておりますので、希望される方にはご紹介をいたします。
2)全身療法(内科療法)
①抗がん剤:ビンブラスチン、CCNU(国内未発売)など
外科手術で完全切除できず再発が予想される時や、多発性、グレードⅡ以上、遠隔転移の認められる時などに行われます。
抗がん剤を投与することによって、全身性にがん細胞の増殖が抑制され、腫瘍の縮小や発育増大の抑制が期待されます。
根治療法ではなく緩和的な治療法です。
なので、たとえ治らない病気でも少しでも長く、元気な状態で一緒にいたいという飼い主さまにお勧めしています。
残念ながら、全ての子に有効ではありませんので、反応が思わしくないときには、他の治療法を考慮します。
②分子標的薬:イマチニブ、トセラニブなど
c-kit遺伝子変異のある動物に対してお勧めしますが、お薬によっては変異がなくても効果が認められる場合もあります。
ただし当初有効であっても、長期的な継続投与によって効果が低下する場合がありますので、反応が思わしくないときには他の治療法を考慮します。
③ステロイド剤:プレドニゾロン
低グレードの小さな肥満細胞腫では、投薬によって腫瘍の縮小や消失が期待されます。(特に猫)
多発性でも低グレードが予測できる症例では、最初に使用して反応を見ても良いかもしれません。(薬価も安価です)
ただし当初有効であっても、継続投与によって効果が低下する場合がありますので、反応が思わしくないときには、他の治療法の考慮が必要になります。
※時々お問い合わせをいただくのですが、診察を伴わない個々のご質問にはお答え致しかねます。申し訳ありません。