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犬の肥満細胞腫

犬の肥満細胞腫/長谷川動物病院
 パグに多い肥満細胞腫/長谷川動物病院

 

肥満細胞腫は、動物病院ではとてもポピュラーな病気です。

 

犬の皮膚や皮下にできる腫瘍では、ダントツの1番です。

 

でも見た目ですぐわかるとか、決して特徴のある腫瘍ではありません。

 

他の病気の診察中に、たまたま見つけてお話しすると、飼い主さまは以前から気づいていらっしゃっても、『ただのイボ』とか『脂肪の塊』としか認識されていない場合が多いです。

 

そうなんです。肥満細胞腫って、見た目はイボ状だったり、脂肪の塊みたいだったり、赤かったり、白かったり、自壊して出血していたり、カサブタを被っていたり、硬かったり柔らかかったり、とにかくいろいろなんです。

 

 

肥満細胞腫って一見、良性腫瘍のような名前ですが、基本的には全て悪性腫瘍で、病理検査によって、悪性度(グレード)がⅠ〜Ⅲに分類されます。

 

 

まず、肥満細胞のお話から。

 

決して太っている子に多い細胞ではありません。(just in case😉)

 

肥満細胞は、白血球の1種である好塩基球と見た目も働きも一緒です。(でも別)

 

臨床的には、血液中にあれば好塩基球、組織に存在すれば肥満細胞です。

 

好塩基球と肥満細胞を総称して、メタクロマジー(顆粒陽性)細胞と言います。

 

細胞質の中に青色のツブツブがいっぱいあるからです。(ちなみに好酸球には赤色の粒々)

 

身体中至る所に分布していて、免疫やアレルギー反応に関わっています。

 

 

肥満細胞腫は皮膚や皮下にできることが一般的ですが、肥満細胞は身体中に分布しているので、身体中どこでもできる可能性があります。

 

肝臓、脾臓、消化管、リンパ節、骨髄などへの転移や原発巣です。

 

気付けるか気付けないかという違いですね。皮膚は目で見てわかりますから。

 

診断は、針吸引生検と言って、できものに細い針を刺して組織を吸引し、薄く引き伸ばして染色をして、顕微鏡で観察をします。

 

皮膚腫瘍の見た目は普通で分かりにくいのですが、肥満細胞はとても特徴的なので、細胞診ではすぐ分かります。

 

生卵に例えると、黄身の部分(核)が見えないくらい、白身の部分(細胞質)に青色の小さな顆粒(ツブツブ)がたくさん含まれています。

 

 

そして、肥満細胞腫の特徴として、ダリエ徴候が挙げられます。

 

皮膚の腫瘍の部分を強く刺激すると、赤く腫れたり急に大きくなったり(その後また小さくなったり)することがあるのです。

 

けれど注意が必要です。この時、肥満細胞が壊れて、たくさんの顆粒が放出されます。

 

その中には、ヒスタミン、ヘパリン、コンドロイチン硫酸、プロスタグランジン、ロイコトリエンなどの、炎症やアレルギー、血液凝固に関わる物質が含まれているからです。

 

これらの物質の作用によって、肥満細胞腫の腫瘍随伴症候群(副腫瘍症候群)が引き起こされることがあるのです。

 

肥満細胞腫の怖さは、腫瘍そのものよりも、むしろこの腫瘍随伴症候群にあります。

 

 

肥満細胞腫の腫瘍随伴症候群

①局所の炎症・浮腫 :ダリエ徴候

②胃や十二指腸の潰瘍・穿孔 :食欲不振、嘔吐、下痢、吐血、黒色便

③血液凝固障害 :手術中や術後に出血が止まりにくい

④創傷の治癒遅延 :手術の傷が治りにくい

⑤肺水腫 :発咳、呼吸困難

 

なので腫瘍に対する治療に先行して、たとえ症状が認められなくても、これら腫瘍随伴症候群に対する治療が行われます。

 

 

肥満細胞腫は、すべての犬や猫で注意が必要な腫瘍ですが、なりやすい犬種がわかっています。

 

それは、ブルドッグ系の短頭種レトリバー系の犬種で、特にパグは他の犬種よりも罹患率が高いです。

 

皮膚や皮下の肥満細胞腫は、1つだけの単発性の場合が多いのですが、パグでは初診時から多発性のことが多いです。

 

多発性であれば、その時点でステージⅢ以上に相当します。(Ⅰ〜Ⅳ)

 

けれど統計的にも経験的にも、パグの皮膚肥満細胞腫は1つ1つが小さくて、グレードⅠ(またはⅠに近いⅡ)の低グレードで、予後良好の印象が強いです。

 

ただし再発を繰り返し、その度に外科切除が必要になるのですが、それでもグレードⅢの子よりは遥かに恵まれていると思います。

 

 

でも、だからと言って安心はできません。

 

例外は必ずありますし、実際には切除した病変の病理検査の結果を待たなければ分かりません。

 

針吸引生検による細胞診で、ある程度のグレード予想は可能です。

 

けれど病変が多数ある場合、全ての細胞診を行うことは難しいので、いくつかの腫瘍を代表として検査を行うことが一般的です。

 

全ての腫瘍の悪性度(グレード)が同じとは限りません。

 

それに、病理検査の時点のグレードがその後も変化なく続くとも限りません。

 

術後の経過観察は重要です。

 

 

 

また病理検査で、肥満細胞腫の悪性度がグレードⅡと診断されたときには、『ⅠとⅢの、どちらに近いⅡであるのか 』を、必ず診断医に確認を行います。

 

その後の治療に必要な情報であるからです。

 

 

予防法はありませんが、早期発見のためには、日頃のお家でのスキンシップを兼ねた体表のチェックと、病院での検診が重要です。

 

体のイボやできものを見つけたら、小さなものでも放置せずに、すぐにご相談くださいませ。

 

 

私たちの病院では、毎年8月と9月の2カ月間、体表にできたできものについての無料相談をお受けしています。詳しくはこちらをご覧ください。

 

 

月単位で様子を見ていて、大きさの変わらないできものならば、あまり心配はないでしょう。(何年も前からあったできものが最近急に大きくなった場合は別)

 

けれど短期間に、急激に大きくなったり、破れて出血していたり、周りに赤く炎症反応が出ていたり、数が増えているできものは、肥満細胞腫に限らず悪性腫瘍の可能性が高いので、早めの診察が望まれます。

 

 

 

以上、今年も私の長いお話にお付き合いくださいまして、本当にありがとうございました。

 

 

🎄🥂 Have a Merry Christmas and a Happy New Year ! ⛄️🐾

 

 

みなさま、よいお年をお迎えください。

 

 

※時々お問い合わせをいただくのですが、診察を伴わない個々のご質問にはお答え致しかねます。申し訳ありません。