犬で多い胆嚢の病気は、初期に症状が出ることはほとんどありません。
せいぜい『時々吐く』くらいです。
なので、飼い主様が初期から「胆嚢の病気だ」と気付かれることは、まずないでしょう。
元気だった子が突然ぐったりしたり、黄疸などの症状が出て、慌てて来院されます。
また、他の目的のための血液検査や画像検査で、偶然発見されることもあります。
元気な時にたまたま見つかって、そこから治療が始まるのが胆嚢疾患治療の理想形です。
今回は、胆嚢疾患に対する治療法についてのお話です。
ちなみに、猫では胆管肝炎はありますが、胆嚢の病気は少ないです。
◆胆嚢疾患の治療法
①食事療法
おやつを控え、ダラダラ喰いの習慣を止めて空腹な時間を作りながら、低脂肪高蛋白食(療法食)を与えていただきます。
同時に、適度な運動と適正体重の維持に努めていただきます。
②内科療法(投薬)
血液検査の肝酵素の数値が高い時、超音波検査やレントゲン検査で、胆嚢炎や胆泥症、胆石症、胆嚢粘液嚢種などが診断されたときなど、病気があるものの症状がまだ現れていない時や、症状の見られている子に対して行われます。
また、心臓疾患や腎臓疾患などの基礎疾患があって麻酔リスクが高いと判断される場合や、飼い主様が手術を希望されない時などです。
利胆薬の投与によって胆汁の流れを良くして、抗菌剤投与によって細菌感染を抑制します。
その他、各症状に対する対症療法としての投薬が行われます。
脂質代謝異常症や、甲状腺機能低下症、副腎皮質機能亢進症などの基礎疾患のある場合には、それらの治療も行います。
③外科療法
a)胆嚢摘出術
重度の胆嚢炎、胆石症、胆嚢粘液嚢種、胆嚢腫瘍、胆嚢破裂の治療を目的として行われます。
内科療法に反応が悪い時、将来的に胆道閉塞や胆嚢破裂が予測される時、あるいは既にそうなってしまった時に行われます。
胆嚢を小切開し、胆泥や胆石、ゼリー状の内容物を吸引し、内部や総胆管内部を洗浄後に縫合して胆嚢を温存することも可能ですが、必ず再発を繰り返すはずです。なので基本的に、胆嚢摘出が行われます。
難しいのは、手術を行うタイミングです。
何も症状がなく元気な時に手術を勧められても、ご家族がすんなりと同意できないことは容易に想像されます。
けれど、胆道閉塞や、胆嚢破裂から胆汁性腹膜炎を起こしてしまうと、急激に状態が悪化します。
この緊急の状態になってからの手術では、手術の難易度や危険度が一気に増してしまうのです。
運良く助かっても、入院が長期化し治療費も高額になるでしょう。
また手術が成功しても、術後にDICなどの合併症によって命を落としてしまう可能性もあります。
そうならないように、元気な時に、破裂する前の胆嚢切除手術をお勧めするのです。
b) 胆嚢十二指腸吻合術
胆嚢よりも十二指腸に近い胆管や総胆管の閉塞や裂開時に、それらを縫合できない時に行われます。
ただし、胆嚢組織の変性・壊死が顕著で、胆嚢を利用できない場合は難しいです。
変性部分の胆管を結紮切除し、胆嚢と十二指腸に小切開を加えてその部分同士を縫い合わせ、胆嚢から十二指腸へ直接に胆汁が分泌されるようにします。
術後は消化吸収の良い食物を与え、消化の悪い線維性食物を与えないように注意が必要です。
c) ストレートチューブ留置術
総胆管破裂部位を縫合可能なとき、癒合するまでの期間、胆汁の漏出を防ぎ縫合部を保護する目的で行われます。
十二指腸側からチューブを総胆管の縫合部より少し先まで通し、チューブの端を十二指腸内部の適切な位置に縫合固定します。
チューブを固定した縫合糸が解けたりちぎれた場合、チューブは糞便と共に排出されます。
実際には、障害部位の胆管は細く脆いために、縫合は難しいです。
また、胆嚢管よりも肝臓側での胆管閉塞では、胆管縫合はさらに困難です。
胆嚢の病気は進行するまで気付かれ難く、発症してしまうと命に関わる危険な病気です。
早期発見、早期からの適切な治療が望まれます。
特に、好発犬種に該当する子たちには、定期的な画像検査をお勧めします。
血液検査と、超音波やレントゲン検査などの画像診断を含む定期検診を皆様にぜひ受けていただきたいです。
私たちの病院では、年に2回の血液検査キャンペーンを行なっていて、特に7歳以上の子たちには検査をお勧めしています。
動物たちは、1年に4〜5歳ずつ歳をとるためです。
こういう機会を上手に活用されて、動物たちが健康で長生きできるように守ってあげてくださいませ。
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※時々お問い合わせをいただくのですが、診察を伴わない個々のご質問にはお答え致しかねます。申し訳ありません。