糖尿病の治療では、多くの場合、お家で飼い主さまによるインスリン注射が必要です。
基本的には1日2回、できるだけ同じ時間に投与していただきます。
けれどインスリンの投与量は、毎回同じというわけではなく血糖値に左右されます。
なのでお家で、飼い主さまから血糖値を測定していただいて、その値に基づいてインスリンの投与量を増減していただくのがベストです。
けれど動物では、実際には採血や血糖値の測定はなかなかハードルが高いです。じっとしてはくれないですし、ストレスによる血糖値の上昇もありますからね。
なので現実には、飼い主さまからの観察記録や色々な検査を元に、インスリンの投与量を調節していただいています。
今回は、血糖コントロールのために行う糖尿病の動物の検査や、飼い主さま方に行っていただいているチェックポイントについてのお話です。
1)血糖値
採血した時点での血糖値(瞬間値)です。
可能であれば、お家で血糖測定器を使用して、飼い主さまから測定していただきます。
病院よりもお家の方がリラックスしているでしょうから、より正確(病院での測定値よりも低い値)な結果が得られるはずです。
※血糖測定器(全血中の血糖値)は、病院の機械(血漿中の血糖値)よりも低い値になります
可能であれば、2~3時間おきに血糖値を測定して、血糖曲線を作成します。
これによって、インスリンの効果や作用時間を知ることができますので、インスリンの種類や投与量の評価に役立ちます。
2)糖化アルブミン(GA)やフルクトサミン
過去1~3週間の血糖値の平均を反映する長期血糖コントロールマーカーです。
一過性の血糖値の変動の影響を受けず、また採血時間の制約がありません。
3)尿糖
前回の排尿時から採尿時までの、血糖値の平均を反映します。
タイミングよく尿試験紙を当てることができれば、お家で最も簡単に血糖値を評価できるアイテムです。
尿糖は、(-)~(3+)で評価し、(+)以上の時には前回の排尿時から採尿時までの血糖値の平均が腎閾値(犬で200㎎/㎗以上、猫で300㎎/㎗以上)を超えているということです。
けれど、逆に(-)の時には、低血糖になっている可能性も否定できませんので、理想は(±)です。
私は尿糖(-)が続く場合は、インスリンの投与量を減らしていただきます。(または可能ならばフードの給餌量を増やします)
なかなかタイミングが合わずに検査ができなかったときも、その排尿時間は必ず記録していただき参考にします。
逆に、排尿時間や検査結果がわからないと、血糖値の予測が難しくなります。
4)ケトン体
ケトン体は脂肪の分解産物で、尿糖と一緒に尿試験紙で測定します。
ケトン体陽性とは、インスリン不足のために食事中の糖を体に取り込めず、代わりに脂肪が分解されてエネルギー源として利用されているという意味です。
なので、治療中は毎回必ず(-)でなければなりませんし、陽性の場合にはインスリンの投与量を増やしていただきます。
(2+)や(3+)が続くと、危険な糖尿病性ケトアシドーシス発症の可能性が高まります。
5)飲水量・尿量
高血糖時には、多飲多尿となります。
インスリンが正しく投与され投与量が適切であれば、正常に戻ります。
6) 表情・動作
低血糖では、元気なく無気力な顔つきで、歩くとふらついたりします。
さらに重症になると、失禁、意識消失、痙攣などが認められます。
高血糖が長く続くと、猫では神経障害が起きて後ろ足の踵を地面につけて歩いたり、ジャンプができなくなったりします。犬では白内障が進行します。
7)食欲・体重
人間用の体重計では小さな動物の体重は正確に測れないので、必ず動物用(赤ちゃん用)の体重計で測定していただきます。
インスリンの効果が不十分で高血糖状態が続くと、食欲が旺盛でも体脂肪と筋肉の減少により痩せてきます。
体脂肪と筋肉の細胞はインスリンの標的細胞なので、痩せている子はインスリンの吸収が悪かったり、作用時間が短くなったりします。
逆に過度な肥満もインスリンが効きにくいので、目標は適正体重を目指すこと。
インスリンの投与量が適正であれば、目標体重のフード量で体重は増加するはずで、体重が安定していれば血糖コントロールがうまくいっていると言えます。
8)FreeStyleリブレ
1回の装着で最長2週間、血糖値の変化が自動的に記録され、採血なしで知りたいときに血糖値を知ることができる、人間用の医療機器です。
動物の体に500円硬貨くらいの大きさのセンサーを装着し、ご自宅で飼い主様が専用のリーダーやスマホをかざして血糖値を読み取ることができます。
正確には、血糖値(血液中の糖濃度)ではなく、細胞間質液中の糖濃度で、血糖値とは僅かな時間的な誤差がありますが、問題にならない程度です。
糖尿病と診断された初めの頃や、血糖コントロールがうまくいかないとき、高血糖で入院中のモニタリングなどに有効です。
現在のインスリンの投与量での変化に基づいて、インスリン製剤や投与量の変更を行って効果を試すことができます。
その他、治療の最初には血中インスリン濃度を測定して、Ⅰ型(インスリン依存性)とⅡ型(インスリン非依存性)糖尿病の鑑別を行います。
その後定期的に一般の血液検査を行なって、併発疾患や2次疾患の有無を確認します。
現実には、特に猫では血糖曲線の作成や必要な検査が行えないことが多いです。
検査結果やお家での様子がわからなかったり、来院のない時には、低血糖や高血糖の状態が気づかれずに放置され、低血糖発作や糖尿病性ケトアシドーシスを発症してしまう危険性が高まります。
また検査データが乏しいと、高血糖の時に本当に高血糖なのか、ソモギー効果による高血糖なのかの見極めが難しくなります。
良好な血糖コントロールのためには、定期的な検査とお家での飼い主さまの協力が絶対に必要です。
※時々お問い合わせをいただくのですが、診察を伴わない個々のご質問にはお答え致しかねます。申し訳ありません。