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抗がん剤

 

抗がん剤(化学療法剤)は、悪性腫瘍(がん)の治療薬です。

 

 

具体的には、

1)リンパ腫や白血病などの造血器悪性腫瘍の時

2)外科手術後に、組織病理検査によって腫瘍細胞の残存や転移が疑われる時

3)骨肉腫や血管肉腫、乳がんなどの、高率に転移を起こす悪性腫瘍の再発を遅らせたい時(時間稼ぎ) などに使用されます。

 

 

効果が期待できる腫瘍や状況は限られていますので、腫瘍の正体(種類)や動物の体の状態をあらかじめ知る必要があります。

 

なので、細胞診や切除組織の病理検査血液検査レントゲン超音波エコーなどの画像検査は必須です。

 

『抗がん剤』という言葉を耳にされると、大抵のご家族は一瞬、暗いお顔をなさいます。

 

身近に、実際に抗がん剤治療を経験された方がいらっしゃったり、あとはドラマの影響でしょうか?

 

『抗がん剤=苦しむ、長期入院、辛い治療』というイメージが出来上がっているように感じます。

 

それは、人の医療では無菌室という設備が整えられていて、根治を目指して限界ギリギリまで、最大量の抗癌剤を投与するからです。

 

抗がん剤は投与量に比例して効果を発揮しますが、反面、投与量に比例して副作用も増えるというジレンマがあります。

 

抗がん剤は、がん細胞だけではなく同じように活発に細胞分裂を繰り返す正常な細胞までも見境なく攻撃するからです。

 

消化管粘膜上皮細胞や、骨髄細胞毛母細胞などがその犠牲となります。

 

リンパ腫などの根治を目指せる腫瘍の場合は、多少無理を承知で頑張っていただくことはあります。(もちろんご家族の承諾を得られた場合のみ)

 

けれど一般的に、動物医療では人間ほど大胆な投与量を投与することはありませんし、できません。

 

動物医療では、腫瘍の撲滅(根治)よりも、ご家族と普通に生活できる程度に腫瘍を抑え込むこと(緩和治療)を目標にすることがほとんどです。

 

効果も大事ですが、どちらかといえば『副作用を気にしながらの投与、出来るだけ入院させずに通院で、延命よりもQOLを重視する治療』となります。(QOL=生活の質)

 

飼い主様の感じ方にもよりますが、副作用が重大ならば、抗がん剤治療そのものが続けられないからです。

 

抗がん剤治療を成功させるコツは、検査で動物の体調チェックを行いながら、予測される副作用に対して先回りをして対策を講じることです。

 

ほぼ共通の副作用は、それぞれ程度の差がありますが、★胃腸障害、♣︎骨髄抑制(白血球や血小板の減少)、♠︎脱毛(猫ではヒゲの脱落)などです。

 

それぞれの副作用が起きると予測される頃に、制吐剤や整腸剤、止瀉薬 、抗菌剤などの投与を、合わせて栄養補給、皮下点滴などの支持療法を行うことで対応しています。

 

今回は私たちの病院で、主に使用している抗がん剤についてのお話です。

(他のお薬については、診察室で直接にお聞きください)

※これらのお薬はほとんどが人体薬であり動物では効能外使用となりますので、使用の際には必ずご家族の承諾をいただきます

 

 

1)シクロフォスファミド

適用:リンパ腫、白血病、骨髄異形成症候群、軟部組織肉腫など

投与法:静脈内投与、経口投与(空腹時)

副作用♣︎(7〜10日目)♠︎、出血性膀胱炎

 

2)ビンクリスチン

適用:リンパ腫、軟部組織肉腫(VACプロトコール)、可移植性性器肉腫など

投与法:静脈内投与(1分)

副作用♣︎、血管外漏出性皮膚炎(壊死)、便秘(末梢神経障害)

 

 

3)ドキソルビシン(アドリアマイシン)

適用:リンパ腫、リンパ性白血病、様々な肉腫や軟部組織肉腫、乳腺癌、甲状腺癌、血管肉腫など

投与法:静脈内点滴(30~60分)

副作用(2〜4日目♣︎(5〜10日目♠︎、アレルギー、心臓毒性、腎臓毒性(猫)、血管外漏出性皮膚炎(壊死)

 

 

4)カルボプラチン

シスプラチンとほぼ同じ効果を持ちますが毒性が軽減され、猫にも使用可能です。

適用:骨肉腫、悪性黒色腫、上皮性腫瘍(癌)、猫の鼻鏡の扁平上皮癌など

投与法:静脈内点滴(30~60分)

副作用♣︎(犬:10〜14日目、猫:17〜21日目)、腎機能障害、アレルギー(まれ)

 

 

5)L-アスパラキナーゼ

適用:リンパ腫、リンパ性白血病

投与法:皮下、筋肉内投与

副作用♣︎(ビンクリスチンと同時投与で)、アレルギー、急性膵炎

 

6)トセラニブ ※分子標的薬(マルチターゲット型)

イマチニブよりも副作用は多い

効果が期待される腫瘍(⚠️効能外使用を含み効果が保証されるものではありません⚠️

犬では、肥満細胞腫、GIST、肛門嚢アポクリン腺癌、転移がん、頭頸部悪性腫瘍、扁桃扁平上皮癌、甲状腺癌、心基底部腫瘍、膀胱移行上皮癌など

猫では、肥満細胞腫、扁平上皮癌、注射部位肉腫、乳腺癌など

投与法:経口投与

副作用♣︎、食欲不振、嗜眠、跛行、高血圧、甲状腺機能低下症など

 

 

抗がん剤は単体として使用されることもありますが、作用機序の異なる複数のお薬を短期間にできるだけ多く使用する方が、耐性ができにくく効果的です。

 

人の考え方や価値観はそれぞれなので、抗癌剤に対して一貫して拒否反応を示すご家族に対しては、積極的にお勧めすることはありません。

 

そもそも根治を望めるケースはあまりありませんからね。🥲

 

それでも、『1回だけ、投与してみませんか?』というお話はします。

 

その反応を見て2回目以降をどうするか、決めていただけば良いのです。

ずっと続けなければいけない決まりはありませんから。

 

1日でも元気で長生きしてほしいという思いの方に対して、また抗がん剤投与のメリットが副作用のデメリットを上回る時、使用条件や動物の体調の条件が揃っている時には、積極的にお勧めするようにしています。

 

しなかった後悔は大きいですから。

 

逆に、治療効果の望めない子に対して、それでも飼い主さまが希望された時には、慎重に説明を続けて、基本的には抗がん剤治療は行わない方針です。

 

それ以外の、治療法や支持療法をお勧めします。

 

 

 その子とご家族にとって、最良と思われる治療法を選択していただくためのご参考にしていただけましたら幸いです。

 

 

 

🌸合わせてお読みください  診療案内・リンク/抗がん治療

 

                                                   抗がん剤治療/診療ITEMS

 

 

※時々お問い合わせをいただくのですが、診察を伴わない個々のご質問にはお答え致しかねます。申し訳ありません。