物理的な刺激による外傷や、感染症、軟部組織の疾患や関節疾患などの時、体内では炎症反応が起きています。
炎症とは、発赤、腫脹、疼痛、発熱、機能障害を示す病変と定義されています。
今回は炎症のうち、特に疼痛を抑えるお薬、鎮痛剤についてのお話です。
その前にまず、アラキドン酸カスケードという、ロックバンドの名前のような?😆 代謝経路のお話をします。
炎症には、体内の様々な化学伝達物質が関与しています。
アラキドン酸は、必須脂肪酸であるリノール酸(ω-6脂肪酸)から作られる脂肪酸で、細胞膜の成分です。
必須脂肪酸は、体内で作り出すことができませんので、食物として摂取する必要があるのは人間と一緒です。
本来は、ω-6脂肪酸のリノール酸とω-3脂肪酸のα-リノレン酸がそれにあたりますが、変換された脂肪酸も正常な機能に必要不可欠であるために、広義にはω-6脂肪酸とω-3脂肪酸が必須脂肪酸と呼ばれます。
ちなみに猫は、ω-6脂肪酸であるアラキドン酸を体内で合成する能力が極端に低いために、アラキドン酸も必須脂肪酸に含まれます。
アラキドン酸カスケードとは、アラキドン酸を出発点として滝のように進行する、様々な炎症を促進する化学伝達物質(エイコサノイド)を作る代謝経路のことです。
大量に作られすぎると病的状態をもたらしますが、生きていくために必要な代謝経路です。多すぎても少なすぎても困るのです💦
免疫細胞であるマクロファージはシクロオキシゲナーゼとリポキシゲナーゼの両方の酵素を持っているため、エイコサノイドの最も重要な産生源です。
アラキドン酸は主に3つの経路で代謝されます。
①COX(シクロオキシゲナーゼ)により、プロスタグランジンやトロンボキサンなどを合成するCOX経路
②リポキシゲナーゼにより、ロイコトリエンなどを合成するリポキシゲナーゼ経路
③エポキシゲナーゼにより、エポキシエイコサトリエン酸などを合成するエポキシゲナーゼ経路
いくつかの消炎剤(鎮痛剤)は、アラキドン酸カスケードを抑制することによって効果を発揮します。
1)ステロイド 剤
組織が損傷された時、細胞膜のリン脂質からアラキドン酸が遊離されるのを防ぎます。
アラキドン酸カスケードそのものを抑制するので、強力な消炎作用を発揮します。
さらに様々なサイトカインや誘導型酵素の発現を抑制することでも抗炎症効果を発揮します。
COXも抑制されるので、副作用の中には消化管潰瘍や消化管出血などの胃腸障害が含まれます。
2)NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)
COXにはCOX-1とCOX-2の、2つのサブタイプがあります。
COX-1は、血小板、消化管、腎臓などに常時発現していて臓器の恒常性維持に不可欠です。
COX-2は、組織の損傷によって発現し、血管拡張作用などを持ち炎症を促進するPGE2などの物質を合成します。
なので理想は、COX-1はそのままに、COX-2だけを抑制するCOX-2阻害薬です。
COX-2高選択性NSAIDsや、COX-2阻害薬は、主にPGE2の合成を抑制することによって、解熱、鎮痛、抗炎症作用を発揮します。
運動器疾患や腫瘍などによる慢性疼痛の管理や、抗腫瘍補助薬として、また抗血栓の目的で使用されています。
副作用は、嘔吐、軟便、食欲不振、消化管潰瘍などの胃腸障害、肝機能や腎機能の血液検査数値の上昇です。
なので他の腎機能を抑制するお薬との併用は慎重に行う必要があり、猫には使用できないお薬があります。
猫用に認可されたお薬もありますが、それらのお薬でも、猫では投与量や回数に制約があります。
アラキドン酸カスケードのうち、COX経路のみの阻害作用なので、消炎効果はステロイド剤よりも弱いですが、動物病院で一般的に用いられている鎮痛剤です。
3)オピオイド受容体作動薬
鎮痛に関与するオピオイド受容体(中枢神経や末梢神経に存在)に結合して鎮痛作用を示します。
急性膵炎や骨折などの外傷による激しい痛みや、癌性疼痛、術前・術中・術後の疼痛管理に用いられ、強力な鎮痛効果を発揮します。
4)その他
ω-3脂肪酸であるEPAやDHAは、ω-6脂肪酸であるリノール酸と拮抗することで、それ以降のアラキドン酸カスケードを抑制し、抗炎症効果を発揮するとされています。
また、EPAやDHAはCOXを競合的に阻害し、NSAIDsと似た働きをするようです。
EPAから誘導されるエイコサノイド(PGD3、LTA5)は炎症を緩和、または調整する機能を持っているとされています。
EPAは、イワシ、マグロ、サバ、マダイ、ブリ、サンマ、サケ、ウナギなどの脂身に多く含まれていますが、熱や酸化に弱いので、サプリメントとして補給する方が良さそうです。
ω-3脂肪酸を毎日摂取することによって、細胞膜のリン脂質中のアラキドン酸がω-3脂肪酸に置き換わり、アラキドン酸濃度が低下して炎症を促進するエイコサノイドの産生量が減少するとされています。
関節疾患、脂漏症、炎症性皮膚疾患、慢性腎臓病、心疾患、認知症、悪性腫瘍の動物に有益であると言われています。
ω-3脂肪酸を摂取することで、NSAIDsの投与量を減らすことができたとか、関節リウマチの症状緩和に効果があったという報告があります。
ただし、あくまでもお薬ではありませんので、実力以上に過信せずに上手に取り入れてくださいませ。
詳しくお知りになりたい方は、病院で直接にご相談ください。
※時々お問い合わせをいただくのですが、診察を伴わない個々のご質問にはお答え致しかねます。申し訳ありません。