排尿障害のうち、尿閉とは膀胱に溜まった尿を排尿できないか、排尿しても膀胱に多量の尿が残る状態です。
膀胱炎や結石による尿道の狭窄や閉塞は 、もともと尿道が細くて長いオスでの発生がほとんどです。
尿閉の原因
①異物:結石や尿道栓子(猫)、凝血塊などによる尿道閉塞
②機械的:遺伝、炎症や感染症、腫瘍による物理的な尿道狭窄や閉塞
③機能的:神経因性膀胱(糖尿病、馬尾症候群、骨盤腔内手術後など)
④薬剤性:抗ヒスタミン剤や抗うつ剤などの抗コリン作用のある薬剤
⑤その他:巨大な宿便や腫瘍による膀胱・尿道の圧迫、会陰ヘルニアなど
治療
完全な尿閉では急性腎不全(腎後性)となるため、早急な処置が必要です。
直ちに尿道カテーテルか、膀胱穿刺によって膀胱内の尿を排出させて尿閉の解除を行い、入院治療で血液検査結果に基づいた点滴処置や、必要ならば抗菌剤の投与を行います。
処置のために麻酔が必要ですが、腎不全の状態では麻酔のリスクがあります。
それでも、尿道括約筋の緊張をなくしてカテーテルを通しやすくするための麻酔は不可欠です。
治療はそれぞれの原因に応じたものとなります。
①異物による尿閉
尿道にカテーテルを通しながら、いったん膀胱まで異物を押し戻して、カテーテル排尿を行います。
その後に膀胱内の洗浄を行い、粘膜を痛めない程度に小さな結石や凝血塊などをできる限り取り除きます。
結石の場合は、カテーテルを留置したまましばらく入院していただき、食欲が回復しカテーテルを除去しても自力排尿できるようになったら退院です。
カテーテル導尿ができない場合は、膀胱穿刺による排尿の後に、犬では尿道に詰まっている結石の直上を切開して摘出し、尿道は皮膚と縫合して開放創とします。(尿道造瘻術)
猫では会陰部尿道造瘻術の適用となります。
療法食で溶解可能な結石は、療法食の給餌を続けていただき、溶解できない結石は外科的な摘出が必要です。
とても再発しやすいので、その後は再発予防用の療法食を続けていただきます。
②機械的(物理的)尿閉
繰り返す膀胱炎や、排尿時に移動する結石やカテーテルによって尿道粘膜が傷つくことにより、ストロー状の尿道の内側に向かって炎症が起こると、尿道の内径がより細く狭くなります。
一時的な炎症による尿道狭窄の場合は、治療と並行した尿道カテーテルの留置によって寛解する場合があります。
特にオス猫で、カテーテルが通らないほど尿道が狭窄している場合は、会陰部尿道造瘻術が必要になることがあります。
膀胱から続く尿道は、膀胱付近は太く、出口に近づくほど細くなります。
この手術は、尿道内径が太い骨盤部で尿道を切断して、陰嚢があるあたりの皮膚に縫合する手術です。
一般的には、同時に去勢手術が行われて陰嚢は切除されますので、外観は女の子のようになります。
ただし尿道口は太くても、縫い付けた皮膚の所での瘢痕収縮によって、再狭窄が起こる可能性があります。
皮膚の瘢痕収縮を防ぐために、縫合する時に包皮粘膜を利用するなどの対策が取られています。
それでも尿閉を繰り返す場合や、外傷による尿道断裂、尿道や前立腺の腫瘍では、腹壁膀胱瘻設置術などの尿路変更術が行われます。
この場合、膀胱を直接皮膚に縫合しますので、自発的な排尿ができなくなります。
尿やけや感染症対策、おむつが必要になります。
犬の場合は可能ならば、包皮や腟粘膜への尿路変更術も行われます。
そのほかには、移行上皮癌や前立腺癌による尿道の狭窄部分に尿道ステントを設置して、一時的に、尿道を確保する方法もあります。(費用は高額ですが💦)
動物では、前立腺肥大は尿閉の原因にはなりません。
③機能的(神経性)尿閉
カテーテルによる導尿や、下腹部圧迫による排尿補助を、毎日複数回、自宅で行っていただきます。(カテーテル留置を行う場合もあります)
膀胱を収縮させ、膀胱の出口を開かせ、(内外)尿道括約筋を弛緩させるような薬剤投与を行うこともあります。
④薬剤性尿閉
尿閉を引き起こす可能性のある薬剤投与を止めていただきます。
効果が見られなければ、③の薬剤投与を考慮します。
⑤その他
それぞれの原因に対する治療を行います。
※時々お問い合わせをいただくのですが、診察を伴わない個々のご質問にはお答え致しかねます。申し訳ありません。