新型コロナウイルス感染症の影響で、消毒用エタノールやポビドンヨードなど、何かと注目された消毒薬。
消毒薬はその作用範囲の広さから、高水準、中水準、低水準に分けられます。
消毒する対象である、ウイルス、細菌、真菌のなかで、最強は、芽胞を形成する細菌(バチルス属、クロストリジウム属)です。
芽胞を完全に不活化することができる条件で、手術の器具などを処理することを滅菌と言います。
具体的には、ホルマリンによるガス滅菌、ガンマ線滅菌、オートクレーブ処理や、180℃30分、160℃1時間以上の乾熱処理などが必要です。(⚠️芽胞細菌は100℃での煮沸消毒では死滅しません)
ちなみに、2日目のカレーは美味しいですが、再加熱をしてもウェルシュ菌の食中毒が起きるのは、ウェルシュ菌が芽胞菌で煮沸消毒では死滅しないからです。
高水準消毒薬、中水準消毒薬、および過酸化水素などの一部の低水準消毒薬は、芽胞細菌に対しても有効であるとされています。
それぞれの性質や特性を理解し、正しい濃度で効果的に使用することや、周囲環境への影響に配慮した使用が望まれます。
今回は、私たちの病院で使用している消毒薬についてのお話です。
1)グルタールZ(グルタプラス):グルタルアルデヒド(グルタラール)
病院内の設備、主に入院室、手術室、診察室、待合室などの消毒。
(以前は使用していましたが、毒性が強いので、現在は使用しておりません)
芽胞細菌を含めて全ての微生物に有効で、有機物の存在下でも作用が低下しにくいです。
作用が強力な分、人体や環境への毒性も強いので、液の目や肌への付着や噴霧蒸気の吸引に注意し、浸漬後には十分なすすぎが必要です。
2)ビルコンS : 複合次亜塩素酸系消毒薬
病院内の設備、主に入院室、手術室、診察室、待合室などの消毒。(メインに使用しています)
芽胞細菌を含めて全ての微生物に有効で、有機物(汚れ)の存在下でも作用が低下しにくいようです。
ちなみに一般的な次亜塩素酸系消毒薬は、有機物汚れを拭き取ったり洗浄後に使用しなければ、消毒薬の効果が減弱します。
ビルコンSは不快な刺激臭がなく、粉末なので希釈しやすく、使いやすいです。
ただし、水に溶かした消毒液は酸化しやすい性質があり、変色して長持ちしません。
金属腐食性がありますので、使用後に水で洗い流したり拭き取りが必要です。
次亜塩素酸系消毒薬は、食器やリネン類、プラスチック類の消毒、環境消毒に適しています。(若干プラスチック劣化作用あり)
肌荒れを生じさせるので、手指消毒には適しません。
※次亜塩素酸水は弱酸性、次亜塩素酸ナトリウムは強アルカリ性で、別物です。
独立行政法人 製品評価技術基盤機構(NITE)は、5月29日、新型コロナウイルスの消毒を目的として利用されている「次亜塩素酸水」について、「現時点においては有効性は確認されていない」という中間報告を発表しました。
3)ポビドンヨード
原液を、手術の術野の皮膚や、外傷の創部や粘膜の消毒のために使用します。
細菌数の減少と残った細菌に対する抗菌効果のために、汚染を受けて感染のある創に対する洗浄に使用されます。
ただし胸膜や腹膜などの体腔内への使用と、皮膚でも30分以上の接触は避けるべきです。
製剤によって、正常組織の損傷を防ぐために使用回数制限がありますが、手指消毒や口腔内洗浄にも使用されています。
ヨウ素をゆっくりと遊離する製剤で、ヨードチンキとは異なり、使用後の拭き取りや水洗は不要です。
時間をかければ、浸漬によりクロストリジウム属の芽胞に対しても有効です。(バチルス属には無効)
ヨウ素は体内に吸収されやすいので、頻回または広範囲に使用すると、一過性の甲状腺機能低下症などの甲状腺機能異常、代謝性アシドーシス、腎不全などを引き起こす可能性があります。
4)消毒用エタノール
70%以上の濃度で芽胞細菌以外の、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)を含めた全ての微生物に有効です。
ただしノロウイルスなどに対しては効果がやや劣りますので、このようなときには十分量での2度拭きが推奨されます。
一般細菌ならば10秒間で殺滅するほど、短時間で効力を発揮します。
(清拭:拭き取りではなく10秒間の消毒液への浸漬が必要という意味です😊 ささっと拭くだけでは効果は期待できませんよ😎)
速乾性で残留性がないので、注射部位の消毒に用いられ、手術部位の皮膚消毒にはクロルヘキシジン(持続効果)との併用で用いられています。(水洗・拭き取り不要)
その他、軽い汚れの除去効果も期待できるので、清拭で体温計や聴診器、注射剤のアンプルやバイアル、ドアノブ、洋式トイレの便座などの消毒に適しています。
手指消毒に関して、汚れのある手指の消毒には本来は適しません。
効果を発揮するためには、必ず流水と石鹸で手を洗い、その手をペーパータオルなどでしっかりと乾燥させてから使用する必要があります。
引火性があり、また刺激性や脱脂作用があり、プラスチック類やレンズ接着面での材質劣化が生じることがあります。
創傷部や湿疹などの肌異常のある皮膚への使用は推奨されません。
5)クロルヘキシジン
低水準消毒薬で抗菌スペクトルは狭いですが、それでも院内感染原因菌のおよそ90%をカバーできます。
無臭で安価、使い勝手が良いため、使用頻度は高いです。
使用目的に応じた濃度に希釈し、創傷部位の消毒(水洗不要)や、アルコールとの混合液が手術部位の皮膚消毒や手指消毒などに用いられています。
体への吸収や有機物による不活化は認められません。
グラム陰性菌の一部の菌は、強い抵抗性を示します。
クロルヘキシジン含浸綿(ガーゼも)を24時間以上放置すると、緑膿菌などの細菌感染を招きやすくなります。
0.5%濃度の消毒液は、目や耳からの侵入で強い毒性を示します。
6)塩化ベンザルコニウム(逆性石鹸or四級アンモニウム塩)
低水準消毒薬で抗菌スペクトルは狭いですが、無臭・無色で使い勝手が良いです。
陽イオン界面活性剤なので、抗菌効果のほかに洗浄効果もあります。
使用目的に応じた濃度に希釈し、粘膜を含めた創傷部位の消毒や手術野の皮膚消毒、熱傷部位の消毒、口腔の創傷部位の消毒、手指消毒、浸漬による器具やリネン類の消毒、清拭による環境消毒に用いられます。(水洗不要)
含浸綿(ガーゼも)を24時間以上放置すると、緑膿菌などの細菌感染を招きやすくなります。
※0.1%、0.05%濃度、1分間の浸漬で新型コロナウイルスが不活化されたとの報告あり。(北里大学)
7)過酸化水素(オキシドール)
生体内に使用すると、分解して大量の酸素を発生し、この酸素の泡が異物除去効果(洗浄作用)を発揮します。
嫌気性菌に対する抗菌効果がありますが、他の微生物に対する消毒効果はあまり期待できません。
使用目的に応じた濃度に希釈し、創傷や潰瘍の消毒、口内炎の洗口、口腔粘膜の消毒、歯石除去後の歯の清浄に用いられます。
浸漬により器具・器材に用いると、一般細菌やウイルスを5~20分、芽胞を3時間で殺滅します。(十分な水洗が必要)
※時々お問い合わせをいただくのですが、診察を伴わない個々のご質問にはお答え致しかねます。申し訳ありません。