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自己免疫疾患と検査

  

体に備わっている免疫系は、体の中に入ってきた、または体の中に存在する何らかの物質を、異物や危険なもの(抗原)として認識します。

 

それらは細菌、ウイルス、寄生虫、移植された臓器や血液、花粉や食べ物の分子、金属、化学物質、ウイルス感染細胞、がん細胞などです。

 

異物に対して、免疫反応が過剰に起こる病気をアレルギー疾患と言います。

 

自己免疫疾患は、自分の体を構成する物質を抗原として過剰な免疫反応が起こり、体の組織を攻撃してしまうアレルギー疾患です。

 

それぞれのヒトや動物の組織内の細胞にも、実は抗原は含まれています。

 

けれど正常の場合は、免疫系は異物や危険な物質だけに反応し、自分の組織の抗原には反応しないはずです。(免疫寛容

 

それでも、何らかの原因で免疫系が正常に機能しなくなり、自分の体の組織を異物と認識して自己抗体と呼ばれる抗体や免疫細胞を動員して攻撃をすることがあります。

 

この反応が自己免疫反応で、それによって炎症と組織や臓器の損傷が起こり、程度によっては機能障害が引き起こされることがあります。(自己免疫疾患

 

本来は、体内で作られる自己抗体の量はごくわずかであるために、自己免疫疾患は起こらないはずなのですが。。

 

自己免疫疾患は、全身にわたって影響が見られる①全身性自己免疫疾患と、特定の臓器が影響を受ける②臓器特異的疾患の2種類に分けられます。

 

①には関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、多発性筋炎などが、②には1型糖尿病、糸球体腎炎、免疫介在性溶血性貧血、バセドウ病、アジソン病、重症筋無力症、血管炎、天疱瘡などが分類されます。

 

発症原因として以下のことが指摘されています。

1)体内の正常な物質が、ウイルス、日光、放射線などの影響で変化し、免疫系に異物と認識されてしまう

 

2)体にもともと存在する物質によく似た異物が体内に入ってきたとき、免疫系が異物を攻撃するときに間違って攻撃してしまう

 

3)Bリンパ球などの抗体の産生を調節する細胞が正常に機能しなくなり、正常な細胞を攻撃する異常な抗体を作ってしまう

 

4)正常な状態では体内の特定の場所に止まっていて免疫系の標的にはならないはずの物質が、外傷などにより血液中に放出されるとき

 

5)遺伝

 

診断は、その特徴的な症状と血液検査によります。

 

血液検査で特定の自己免疫疾患発症時に現れる様々な抗体の有無を調べます。

 

1)リウマチ因子

リウマチ因子とは、変性IgG抗体を抗原として形成される自己抗体で、犬の関節リウマチの診断のために検査されます。

リウマチは、変性IgG抗体(抗原)とリウマチ因子(抗体)とからなる免疫複合体が、関節内で炎症を引き起こすことで関節が破壊されます。

臨床症状と合わせて、総合的な判断が必要です。

 

2)抗核抗体(ANA)

抗核抗体(ANA)は、真核細胞の核内に含まれる様々な抗原性物質に対する抗体群の総称です。

犬の全身性紅斑性狼瘡(全身性エリテマトーデス:SLE)の診断基準の1つです。

けれどこの検査では、健康な犬の15%、色々な感染症の犬の20%でも陽性が認められ、臨床症状との総合的な判断が必要です。

 

3)クームステスト(抗グロブリン試験)

赤血球表面に付着している抗体(IgG、IgM)や補体(C3)、血清中の不規則抗体が存在しているかどうかを調べるための検査です。

免疫介在性溶血性貧血(IMHA)の診断のために行われます。

患犬の赤血球表面に結合している抗赤血球抗体を検出する直接クームステストと、患犬の血清中に存在する不規則抗体を検出する間接クームステストがあります。

犬のIMHAの診断における感度は61~82%、特異度は95~100%とされています。

温式(37℃)と冷式(4℃)の2温度で実施されます。

 

 

自己免疫疾患の中には、原因不明のまま発症し自然に治癒するものもありますが、ほとんどは慢性の病気です。

 

そのためそのほとんどは生涯にわたってお薬で症状をコントロールする必要があります。

 

治療は、全身性自己免疫疾患ではステロイド剤などの免疫抑制剤の投与、臓器特異的疾患では、例えば糖尿病ではインスリン投与というように、個々の疾患での治療となります。

 

 

※時々お問い合わせをいただくのですが、診察を伴わない個々のご質問にはお答え致しかねます。申し訳ありません。