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集団免疫

 

私が大学を卒業後、獣医師として働き始めた20数年前、犬ジステンパーウイルス感染症の大流行が起こりました。

 

この伝染病は、犬をはじめとする食肉目の動物(フェレット 、アライグマ、ライオン、トラ、チーターなど)に感染します。

 

パンダにも感染します。

 

致死率が50〜90%程度ととても高く、現在でも警戒すべき犬の重要な伝染病の一つです。

 

世界中の野生動物への感染も広まっていて、ニホンオオカミ絶滅の原因の1つとされています。

 

犬ジステンパーウイルスは、ヒトの麻疹(はしか)ウイルスの仲間です。

 

カニクイザルやニホンザルへの感染はありますが、ヒトと家猫への感染の報告はありません

 

混同されやすい『猫ジステンパー』と呼ばれる伝染病は、『猫汎白血球減少症』、つまり猫パルボウイルス感染症のことで、全く別のウイルスです。

 

ジステンパーに感染した犬は、発熱(2峰性発熱)、鼻汁や発咳などの風邪症状、食欲不振や下痢などの消化器症状、硬蹠症(ハードパッド)などが見られ、そして末期には痙攣や麻痺などの神経症状を呈して死亡します。

 

治療はウイルスに対する治療法がないので支持療法や対症療法が中心となり、点滴や栄養補給、細菌の2次感染予防のための抗菌剤投与、抗痙攣剤投与などです。

 

犬ジステンパーウイルス感染症には、予防するためのワクチンがありますし、当時もありました。

 

けれど当時は今と違い、混合ワクチンの接種率が著しく低い状況でした。

 

ほとんどのワンちゃんは予防接種を受けていませんでした。

 

そのような伝染病に対して無防備な状況でジステンパーが流行したものですからたまりません。

 

動物病院には毎日毎日感染犬が来院し、そのほとんどが治療の甲斐なく痙攣を起こしてバタバタと亡くなってゆきました。

 

こういう時、本当に無力感に苛まれます。😔

 

運良く助かった子たちは、感染の早い段階から治療を開始できた子たちです。

 

助かっても、神経症状(チック)などの後遺症が残ることがあります。

 

ジステンパーウイルスは、パルボウイルスほどしぶとくはなく、きちんと対応をすればアルコールや界面活性剤(石鹸)で死滅します。

 

けれど当時はあまりにも感染犬が多く、院内感染防止のために感染がわかっている犬は病院内には入れられずに、駐車場で治療や処置を行い、その後に徹底的に消毒を行いました。

 

もちろん入院などさせられません。ジステンパーとは、それほど恐ろしい伝染病なのです。

 

この経験後、ペットショップや飼い主様方にワクチンの重要性が認識されて接種率が高まり、やがて『集団免疫』が獲得されて、感染が徐々に収まってゆきました。

 

ワクチン接種によって、その子が伝染病から守られると同時に、たくさんのそういう子たちが免疫の盾』となることで、伝染病の広がりを食い止め、周りの免疫を持たないワンちゃんたちを守ることができるのです。2重の守りです。

 

けれどもヒトは、喉元過ぎれば熱さを忘れる生き物です。ジステンパーの大流行も遠い遠い昔のお話。

 

実際の感染と違い、ワクチンの予防効果はたとえ生ワクチンでも一生ではありません。

 

子犬の頃に接種したっきりでは、何年後かには無効になっていることでしょう。

 

感染症予防のためには継続的な接種が必要です。

 

ワクチン接種率が低下し、犬全体の『抗体保有率』(免疫を持っている犬の割合)が下がれば下がるほど集団免疫』が失われ、感染症流行の危険性が増加します。

 

狂犬病も同様です。現在の狂犬病のワクチン接種率抗体保有率)は、地域差はありますが日本全体ではおそらく50%前後でしょう。

 

ひょっとしたら、50%を下回っているかもしれません。

 

こんな状況で、もしも日本に狂犬病ウイルスが入ってきたとしたら。。

 

日本の周りの国々は、どこも狂犬病の常在国ですから。

 

考えるだけで、とても恐ろしいです。😱

 

 

話変わって、新型コロナウイルス感染症には今現在、まだワクチンがありません。

 

なので現在の状況が収束するためには、少なくても全体の6~7割の人が感染して『集団免疫』を獲得するしかないでしょう。

 

そうなれば、感染して回復後に免疫を獲得した人が未感染者同士の間の壁となることで、感染拡大が防止され徐々に感染が収束していくはずです。

 

ドミノ倒しの倒れようとするドミノ牌を、途中で止めるようなイメージです。

 

極端な言い方をすれば、多くの人が感染して免疫を獲得できれば、この問題は解決されるでしょう。

 

けれど急速に感染が広まってしまうと、医療施設やスタッフの対応限界を超えてしまい(医療崩壊)、たくさんの感染者が十分な治療を受けられずに亡くなってしまうことになります。

 

その中には、肉親や大切な人が含まれているかもしれません。

 

そんなことになっては、絶対にいけないのです。

 

なので、感染の広がりをできるだけゆっくりとさせたいと専門家も政治家も考えています。

 

そのことが世の中の人、特に自分自身のこととして危機意識を持てない人たちに理解されていないように思います。

 

なので外国では、2~4週間程度人の移動を確実に止めて(都市封鎖や外出禁止にして)、感染が広まらないようにして、ウイルスを封じ込めようとしています。

 

ウイルスは生きている間に他の生物に伝染できなければ、死に絶えてしまうからです。

 

発生元の中国で、このことが早期に行われていたならば、世界中の今のこの状況はなかったでしょう。中国指導部の罪は大きいです。

 

けれど世界中に広まってしまった今、世界中の国々が一斉に、そんなことができるわけがありません。

 

真面目で責任感が強くて我慢強い日本人でさえ無理なのですから、個人主義的な欧州人にできるわけがありません。ましてや途上国の人たちに。

 

現に、初期対応から国民に強い規制をかけたイタリアやスペインでは、政府への反対デモや集会が起きて、逆に感染が広まってしまいました。😓

 

小さい時からの習慣や、性格・気質は急には変えられないということです。😕

 

日本人は次々に起こる自然災害によって、危機意識や対応能力が自然と備わっているのでしょうね。

 

今年新潟市では、新型コロナウイルス感染症の感染拡大が治らないことを理由に、毎年4月に行われてきた狂犬病の集合注射が中止となりました。

(代替実施等については現段階では未定です)

 

けれど継続して狂犬病の発生を防ぐためには、毎年の狂犬病予防注射の実施が必要不可欠です。こんな時だからこそ、尚更です。☹️

 

狂犬病のワクチンは、予防効果の弱い不活化ワクチンだからです。

 

狂犬病の発生を未然に防ぐために、ワンちゃんを飼育されている方には、必ず定期的な予防接種を受けていただきたいです。🤨

 

もちろんお散歩をしないとおっしゃる室内犬も同様です。同じわんこですから。

 

狂犬病はヒトも感染し発症すればほぼ100%死亡するとても恐ろしい伝染病です。🥺

 

毎年の狂犬病予防接種は、犬を飼う人の義務です。

 

飼育者の方々には、人ごとではなくご自分の命に関わることとして、危機意識を持って対応していただきたいです。😃

 

 

※時々お問い合わせをいただくのですが、診察を伴わない個々のご質問にはお答え致しかねます。申し訳ありません。