「先生、野良猫って怖い病気を持っていて直接触らない方がいいって聞いたんですけど、大丈夫ですか?不安です。」
先日、外猫の避妊手術のために来院された方がおっしゃいました。
「具体的には何が不安ですか?」とお聞きすると、「わかりません。でもそんな話を聞いたので、心配なんです。」
モヤモヤしたわからないものに対して、わけもなく不安がることは、あまり意味のないことに思われます。不安な気持ちは伝染しますからね。
今回は、最近話題になった動物が関係する感染症についてお話しします。
マダニが媒介するSFTS(重症熱性血小板減少症候群)。
感染しても動物(犬や猫や野生動物)はほとんど症状が出ませんが、発症すると食欲廃絶、発熱、黄疸、出血症状、血液検査で白血球と血小板の減少が認められます。
人間は発症すると、発熱、食欲廃絶、全身倦怠感、下痢、神経症状、リンパ節腫脹、出血症状、血液検査で白血球と血小板の減少などが認められます。
治療は対症療法のみで、今のところ有効な治療法やワクチンはありません。
なのでSFTSから身を守るためには、病気の正しい知識を身につけ、適切な予防策を講じることです。
ちなみにSFTSは、健康な動物から人が感染することはありません。
人はウイルス感染したマダニに吸血される時に感染しますが、犬猫を含む感染動物による咬傷や濃厚接触による感染、感染した人からの感染(ヒトーヒト感染)も確認されています。
ウイルスは感染動物の血液や唾液などの体液、尿、糞便中に存在します。なのでそれらの取り扱いには注意が必要です。
今のところ、九州や西日本での感染が目立ちますが、ウイルスに感染しているマダニは日本中で確認されていますので、新潟でも安心はできません。
2003年からの記録では、ヒトは飼い主のご家族以外に動物病院関係者も感染し、幸い死亡者はいませんが、飼い主の方の中には死亡した方もいらっしゃいます。
動物病院で働く獣医師も看護師も、対処法を心得ているからでしょう。
けれど糖尿病などの持病があったり、ストレスや疲労が蓄積して体力(免疫力)が低下した状態では、とても危険であると言えます。
なので疲れを溜めないように、私たちは体調管理に努めています。自分の体は自分自身で守らなければなりませんからね。公的保証など何もありません。
そして私たちの病院では、人馴れしていない動物に関しては、鎮静剤やガス麻酔の使用をお許しいただきます。
現実問題として、そうでなければきちんと診察することができないからです。
そして野生に近い動物には、防具をつけ必要最低限の接触に留めます。
以前、マダニといえばワンちゃんの問題でしたが、最近は元気な猫でもマダニがついている子もいます。
マダニによる感染症は国内では他にもライム病、日本紅斑熱、ダニ媒介性脳炎、Borrelia miyamotoi感染症、ヒト顆粒球アナプラズマ症、バベシア症などの報告があります。
マダニではありませんが、新潟ではツツガムシ病もダニが媒介する感染症です。
また先日、北京で肺ペストが確認されたというニュースがありました。
ペストは細菌感染症で、腺ペストはノミの吸血により、肺ペストは感染者や齧歯類からの飛沫から感染します。
すぐに日本に入ってくるということはないでしょうが、豚コレラの例もありますからね。
さらに空港や港湾施設での検疫を経ずに、国内に侵入する動物(猫やコウモリ、ネズミなどのコンテナ迷入動物や船員が連れている動物)の存在もあります。
ヒアリも、コンテナ経由で広がりましたよね?
そういう動物にはノミやマダニなどが付着しているかもしれません。
動物に寄生しているノミやマダニの駆除は簡単です。滴下薬や飲み薬の良いお薬があります。
ただし、必ず動物病院で取り扱うお薬をお使いくださいね。
最後に、 私たち動物病院関係者は、動物に噛まれたり引っ掻かれたりするのは日常茶飯事です。
もしも動物に噛まれたり引っ掻かれたりしても、すぐに適切な処置をすれば亡くなることは、そうそうあることではないはずです。
動物との普段の生活でも、インフルエンザの予防と同様のうがい手洗いを行い、密接な接触を防ぐなど基本的なことに気をつけていれば、何か持病をお持ちでない限り、そう怖がる必要はないでしょう。
現に、私たち動物病院関係者がそうですからね。
それでも弱った外猫や野生動物を見つけたら、ほっとけないのも人情です。
多分、友好的ではないはずですから、噛まれないに気をつけてください。
もしも噛まれたら、放置せずすぐに外科の病院へ行ってくださいね。
ペット用でなくても、工業用のこんな革手袋があると便利ですよ。(お値段は1000円前後です)
欲を言えば、出来るだけ長いものが良いのですが、短ければ腕の部分は新聞紙を厚めに巻くなどして保護した方が良いでしょう。
私は右肩を噛まれたことがあります。😅
動物から人に感染する伝染病は実際いくつもありますし、検索すれば詳しく知ることができます。
ちなみに動物から人間に伝染し、発症すれば致死率100%の一番恐ろしい病気は狂犬病です。(発症する前の早期に適切な治療を行えば助かる確率は高いです)
狂犬病は現在日本に存在しませんし、予防注射を毎年接種されていれば犬が感染することはありません。
もしも狂犬病が日本に入ってきたら、とてつもない大パニックになるでしょう。
けれど予防注射を接種されている犬たちが防波堤となり、病気の拡大を防ぐ役割を果たしてくれるはずです。
なので狂犬病の接種率は大事なんですよ。70%以上は欲しいところなんですが。。(現在は50%前後?)
病気を知れば、その対策法もわかるはず。
けれど、忘れないでください。人に病気をうつす一番怖い生き物は人間です。
私たちは、どんな病気を持っているかわからない人と毎日接触をしているのですから、闇雲に野良猫を怖がるのはおかしな話って思いませんか?
皆様と動物たちの健康管理の参考にしていただけましたら幸いです。
※時々お問い合わせをいただくのですが、診察を伴わない個々のご質問にはお答え致しかねます。申し訳ありません。