肥満細胞腫は嫌な腫瘍です。
全ての皮膚腫瘍のうち、犬で1番目、猫で2番目に多いので、動物病院ではとてもポピュラーな腫瘍です。
写真参照:動物たちの記録:🔶肥満細胞腫
犬と猫では腫瘍の性格(状況)が違い、珍しく一般的に猫よりも犬の方が悪性度が高い数少ない腫瘍の1つです。
長くなるので、今回は犬について簡単にお話をします。
肥満細胞腫の詳しいお話と、猫ちゃんはまた今度、別の機会に。
犬は、パグ、ラブラドール・レトリバー、ゴールデン・レトリバーなど、好発犬種はありますが、全ての犬がなる可能性があると思ってください。
パグでは多発性が約半数と多いのですが、その他の犬種では多発性は1~2割弱で、ほとんどが1つ、単発性にできる腫瘍です。
ちなみに、この名前から太っている子がなる病気だと思われがちですが、肥満とは全く関係なく(関係ありという説もありますが)、免疫細胞である白血球の1種、肥満細胞(好塩基球)が腫瘍化し異常増殖する病気(悪性腫瘍)です。
肥満細胞は全身に広く分布しているので、全体の約半数が皮膚や皮下組織にでき、その他は消化管、口腔、脊髄、肺など全身にできます。
転移は肝臓、脾臓や腹部のリンパ節に起こり、肺への転移は稀とされています。
肥満細胞腫は全て悪性の腫瘍ですが、以下の要因によって、その子の予後(健康状態や生存日数)が変わってきます。
①臨床ステージ(0~Ⅳ)
②組織学的グレード(Patnaik:Ⅰ~Ⅱ, Kiupel:低、高)
③血管内、リンパ管内への腫瘍細胞浸潤の有無
④発生部位
⑤腫瘍の大きさと発育速度
⑥治療法
⑦全身状態、症状(腫瘍随伴症候群)の有無
⑧術後再発の有無
⑨c-kit遺伝子変異の有無
⑩飼い主のご家族の病気に対する理解と考え方、その子への思い
治療は外科手術によって一度に取りきってしまうのが一番です。
けれど高悪性度だったり完全切除の難しい場合などは、放射線療法、化学療法、分子標的療法などが、それ単独や外科手術と併用する治療法として有効です。
このうち分子標的療法を行うにあたり、その子にとってこの治療が有効であるかどうかを調べる方法が『c-kit 遺伝子変異検査』です。
この検査で『変異あり』の子は、分子標的薬のお薬を飲むことで、外科手術をしなくても腫瘍をなくすことができる可能性があるのです。
さらに外科手術で取りにくい場所に腫瘍のある子は、分子標的薬をしばらく飲んでいただいて、ある程度腫瘍を小さくしてから外科手術で取りきるという方法もあります。
ただし分子標的薬には、以下の難点があります。
①ジェネリックのお薬でさえもまだ高価である
②毎日飲み続けなければならない(1日おきのお薬もある)
③お薬に耐性ができて効かなくなる可能性がある
「やってみなはれ、やらなわからしまへんで。」
鳥井信治郎さん(サントリー創業者)のこの言葉が私は好きで、実際その通りだと思っています。
人間のように十分な臨床データが揃っていない獣医学では、可能性のあることは試す価値があると思うのです。(ただしリスクが上回ると判断される場合以外)
ですが、高価なお薬を毎日飲ませ続けなければいけない、このような場合、軽々しく「試してみましょう」とは、流石に言えません。
c-kit遺伝子変異検査は、分子標的薬による分子標的治療における確証(お墨付き)のようなものです。
この検査で『変異あり』であれば、ほぼ分子標的薬は有効です。
検査自体も高価(分子標的薬1週間分よりはるかにお安い)ですが、価値のある検査だと思います。
※時々お問い合わせをいただくのですが、診察を伴わない個々のご質問にはお答え致しかねます。申し訳ありません。