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猫の腎臓病治療

 

腎臓は、犬も猫も人間も、左右1つずつ存在します。

 

どちらか1つが失われても、健康であれば何の支障もなく生きていけるほど、我慢強く逞ましい臓器です。

 

その機能は、

①体内の老廃物の排泄

②血液や尿などの体液成分のバランス調整

③ホルモンなど生理活性物質の産生(赤血球生成刺激&血圧調節など) です。

 

腎臓病は、急激な腎臓の機能低下や尿量の減少が起きる急性腎障害(尿毒症症状があれば腎不全)と、急性腎障害を脱したものの腎臓の障害が残ったり、あるいは老化に伴い持続的に存在する慢性腎臓病があります。

 

猫では、加齢による慢性腎臓病が圧倒的に多いです。

 

年齢や、食欲不振、体重減少、多飲多尿、嘔吐、脱水、便秘などの臨床症状から血液検査を行い、IRIS(国際獣医腎臓病研究グループ)の慢性腎臓病のステージ分類で、2~3の段階から治療を開始することが多いです。

 

治療は対症治療を中心に、食事療法や皮下点滴、吸着剤の投与など、飼い主様とご相談を繰り返しながら選択されます。

 

ところで、犬では腎糸球体の損傷に起因する蛋白漏出性腎症が多いのに対して、猫の慢性腎臓病は、尿の濃縮力が低下する慢性間質性腎炎であることが多いようです。(なので猫では脱水症状や尿路感染症が多い)

 

この慢性間質性腎炎の進行を抑えるために、2017年に猫の慢性腎臓病治療薬が発売されました。

 

このお薬は、次のような働きをするそうです。

①血小板の機能を抑えて、腎臓の小さな血管に血栓を作らせにくくする

②血管を拡張させて腎臓の血流をよくする

③炎症を起こさせるサイトカインという生理活性物質(ホルモンのようなもの)の生成を抑えることによって腎臓間質の線維化を抑える

 

キーワードは『腎臓の血流の回復』と『慢性炎症と線維化を抑える』です。

 

腎臓は血液の濾過器ですから、細い血管(毛細血管)がたくさん存在します。

 

炎症が起きると、その場所に血小板が集まり細い血管を塞いでしまいます。(微小血栓の形成と毛細血管の減少⇨血圧上昇)

 

シャワーヘッドの穴が詰まるようなものですね。

 

このお薬はそれを防ぎ、さらに腎臓につながる血管を広げて血流を良くするらしいです。

 

そうすると血の巡りが良くなって、腎臓に十分な酸素が供給され、病気の悪化の抑制が期待されます。

 

 

さらに一般的な猫の慢性腎臓病では、腎臓で慢性的に炎症が起きていて、その結果、腎臓がだんだんと機能しない組織(線維組織)に置き換わっていきます。

 

そしてますます機能が低下するという悪循環に陥っています。

 

このお薬はサイトカインという炎症を促す物質の産生を抑えることによって、慢性炎症を起こさせないようにし、結果的に腎臓の線維化を抑える働きをするそうです。

 

こんな風に、慢性腎臓病の悪化や進行を抑える働きをするお薬です。

 

 

勘違いをしないでいただきたいのは、このお薬は猫の腎臓病を治す(完治させる)お薬ではないということです。

 

さらに、リンパ腫など腫瘍性の腎臓病や水腎症など、慢性間質性腎炎以外の腎臓病には効果は期待できないでしょう。

 

残念ですが、腎臓病は心臓病と同じで、一度なってしまうと臓器丸ごと取り替える移植手術をしない限り、元の健康な体に戻ることはありません。

 

なので、腎臓の残された正常な部分(機能)を大切に守りながら、病気の進行をできるだけ遅らせて、良い状態を長く保たせることが治療の目標です。

 

決して治すことが目標ではないのですが、色々な治療が功奏して一旦元気になると、治ったと勘違い(思いたい?)して、治療をやめてしまわれるご家族がいて困ります。

 

猫の慢性腎臓病は、経験された方はわかると思いますが、調子がいいなぁって思っていると、急に具合が悪くなったりと、症状にとても波のある病気です。

 

末期以外は、猫ちゃんたちは比較的よく治療に反応してくれますので、諦めずに気長に治療を続けていただきたいと思います。

 

 

※時々お問い合わせをいただくのですが、診察を伴わない個々のご質問にはお答え致しかねます。申し訳ありません。

 

 

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