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子宮蓄膿症と不妊手術

診療ITEMS/長谷川動物病院
不妊手術と子宮蓄膿症/長谷川動物病院

 

卵巣子宮摘出手術は、メスの犬や猫の不妊手術として一般的に行われている手術です。

 

卵巣だけ摘出して子宮を残す場合でも、卵巣のホルモンによる影響がなくなるために、その後に子宮蓄膿症になることはないと言われています。

 

子宮蓄膿症は、犬では不妊手術を受けていない高齢の動物がなりやすい病気です。

 

名前の通り、本来は胎児が発育する場所である子宮内部の空間に、大腸菌などの細菌感染が起きて膿汁が溜まる病気です。

 

猫の場合は交尾排卵動物であることと、不妊手術を受ける子がほとんどなので、症例数は少ないですが、若齢の子がなりやすい傾向があるので注意が必要です。

 

今回は、症例数の多い犬を中心にお話しします。

 

犬は不妊手術を受けない子が結構いますし、出産回数もほぼ0ですので、その分発情周期を繰り返して、高齢になってから発症する子が多いです。

 

健康な犬の場合は1年に1~2回、発情前期→発情期→(排卵)→黄体期→発情休止期といった発情周期を繰り返します。

 

発情前期に外陰部からの出血が確認されることで気づかれると思いますが、出血がなくなる頃が本当の発情期で、出血がなくなってから約2ヶ月間が黄体期です。

 

この時期は妊娠しなくても、犬の体は妊娠している時と同じ状態になっています。(偽妊娠

 

妊娠しなければ、人間では生理として排泄される子宮内膜が、犬では黄体期の期間中保たれ、子宮の中は栄養豊富なふかふかのベッド状態が持続します。

 

発情期にはオスの精子、黄体期には胎児という『異物』を体内に受け入れなければならないので、メスの体ではいつもは厳重な免疫系の監視が緩みます。免疫抑制状態になるのです。

 

さらに犬の発情期は、精子を受け入れるためにいつもは閉じている子宮頚管が開いて、外陰部から膣経由で子宮内に大腸菌などの細菌感染が起きやすい状態になります。

 

なので発情周期を何度も繰り返している高齢犬ほど、発症リスクが高いです。

 

さらに、卵巣の機能不全によって発情周期が回らずに、卵巣に黄体がずっと居座っている場合にも起こりやすいです。

 

子宮蓄膿症は子宮と膣との間にある子宮頸管が開いていれば、外陰部から血膿のような分泌物が出てきて発見されやすいです。(開放型

 

子宮頸管が閉じていると、分泌物が子宮の中に閉じ込められて溜まりますので、発見が遅れて症状が重篤になりやすいです。(閉鎖型

 

症状は、外陰部からの分泌物以外に、元気消失、食欲不振~廃絶、多飲多尿、嘔吐など。

 

さらに重症になると敗血症や貧血、細菌の出す毒素のせいで、腎不全などの多臓器不全により死亡することもあります。

 

診断は、閉鎖型の場合には発情期の聞き取りによる問診、触診、超音波検査やレントゲン、血液検査によって、全身状態の把握に努めます。

 

治療は、一般的には卵巣子宮摘出手術を行います。

 

手術自体は避妊手術と同じですが、状況は全く違います。

 

閉鎖型の場合は、症状が重症の場合があり、そんな時は手術に高いリスクを伴います。

 

それでも放置すれば確実に死に至る場合もありますので、点滴などの支持療法を行いながらご家族の了解を得て、手術時期を慎重に決めます。

 

けれどワンちゃんの健康状態や、心臓病などの元々の持病、飼い主様のお考えなどにより、手術を行わない(行えない)場合には、抗生物質投与や補液、ホルモン剤投与(開放型)などの内科的治療を行うこともあります。

 

ただし内科的な治療の場合は、症状の改善が見られたとしても次回の発情後に再発する可能性が高いです。

 

そしてホルモン剤投与を行った場合は次回の発情が1〜2ヶ月くらい早まります。

 

心臓疾患のある子は、血管収縮作用のあるホルモン剤投与が行えません。

 

さらに子宮頚管の開放が不十分な場合は、ホルモン剤投与により子宮が収縮して破裂する可能性があります。

 

 

子宮蓄膿症は、早期に適切な治療を行えば、完治して元気に暮らせる病気です。

 

過去には、16歳で摘出手術をして20歳まで生きた柴犬もいました。

この子は手術をしなければ、16歳で生涯を終えていたでしょう。

 

たとえ開放型でも、治療せずに長期間放置をすれば、敗血症や多臓器不全により死に至ることもあります。

 

何れにしても、一番の予防法は若くて元気なうちに行う不妊手術です。

 

 

 ※時々お問い合わせをいただくのですが、診察を伴わない個々のご質問にはお答え致しかねます。申し訳ありません。